鉄道ビジネスの停滞感が顕著になるなか、次代を担うブレイクスルーは何なのか。そう考えたとき、やはり筆頭に上がるのは「超電導リニア」だろう。技術は確立済みで、リニア中央新幹線の建設も各地で進むが、静岡県の反対が2027年を目指していた開業を阻んでいる。いくら「国家プロジェクト」だと訴えても、結局のところ、地域と真剣に向き合うことを宿命づけられているのが鉄道というビジネスだ。

 22年10月にJR東海の山梨リニア実験線に試乗する機会を得た。実は超電導リニアに乗るのは5年ぶり2度目。鉄道を取材している記者としての完全な役得である。

 とはいえ、正直に言って、2度目の試乗に心ときめいていたわけではない。5年前に乗ったときの印象がそれほど良くなかったからだ。

 超電導リニアは鉄道のような車輪ではなく、浮上して走行することはよく知られている。レールのつなぎ目はないし、地面に接していないのならさぞ滑らかに走るのだろう……。そう期待して乗ったら、見事に裏切られた。発車時の急加速はまるで飛行機のように荒々しく、浮上走行時も小刻みな揺れがあって、コップの水がこぼれないことを売りにしている新幹線の滑らかな乗り心地とはほど遠い。そして時速150キロメートル程度まで減速するとタイヤ走行に切り替わるのだが、その際もガタンという衝撃があり、飛行機が着陸するような感覚だった。総じて鉄道というよりは飛行機に近く、快適性では鉄道に一日の長があると感じた。

 さて、今回はどうだろうか。

 現地で超電導リニアと対面して気づいたのだが、5年前とは車両の一部が変わっていた。20年春に7両編成のうち先頭車両とその隣の中間車両の2両が「L0系改良型試験車」に置き換えられたという。今回はその改良型に乗り込むことになった。

現在実験に用いられているL0系改良型試験車(写真=PIXTA)
現在実験に用いられているL0系改良型試験車(写真=PIXTA)

 5年前に乗った超電導リニアの車内は、JR東海の東海道新幹線N700系と似た印象だった。しかし改良型は、だいぶ雰囲気が変わっていた。椅子の軽量化に腐心したのだろうか。細いパイプで支えられていて、足元に荷物を入れるスペースがあるなど、飛行機の椅子に近い。前席背面の大型テーブルがなくなり、肘掛けに収納された小さなテーブルだけになったのは、東京-名古屋間で最速40分、東京-大阪間で同67分という所要時間を考慮したのだろう。確かにその程度の所要時間なら、弁当を食べたり、パソコンを開いて仕事をしたりするほどのこともない。

新幹線の座席と比べるとフレームが細く、さらに軽量化されている様子がうかがえる
新幹線の座席と比べるとフレームが細く、さらに軽量化されている様子がうかがえる

 天井は編み込まれた繊維のようなもので覆われていて、聞けば吸音効果があるという。

 さて、いよいよ出発だ。山梨リニア実験線は全長42.8キロメートル。将来はリニア中央新幹線の一部となる。出発地点からはまず実験線の東端に向かい、そこから折り返して最高時速500キロメートルで全線を走行。西端で折り返して出発地点へと戻る。都合3回ずつ、加速と減速を体験した。

 変わっていなかったのは、急加速と、停車前に浮上走行からタイヤ走行に切り替わるときの衝撃。これはやはり飛行機に近く、鉄道と超電導リニアは違う乗り物だと再認識した。

 一方、浮上走行中の揺れについては、前回の試乗時ほど強い印象は受けなかった。

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