「決められた線路を走る鉄道の自動運転はハードルが低いと思われがちだが、そうではない」。JR東日本で技術開発を担当する技術イノベーション推進本部統括の浦壁俊光執行役員はこう話す。JR東は、2027年に向けた中期経営ビジョンでは運転士がいない「ドライバレス運転の実現」を掲げる。

 21年3月から常磐線各駅停車で運転士が乗務した状態での自動運転を始めており、この秋には上越新幹線の回送列車でも実証実験を行う。この2路線にはある特徴がある。どちらにも踏切がないのだ。車や人が線路に立ち入る可能性が限りなく低いため、可能となったという。

 ローカル線を含む、踏切のある多くの路線では自動運転のめどが立っていない(参考記事「ローカル線を救うか JR九州が挑む低コスト自動運転」)。理由は、鉄のレールと鉄の車輪を使っているため。摩擦力が小さく、少ないエネルギーで走行可能な半面、急加速や急ブレーキは苦手だ。国土交通省の基準では、「新幹線以外の鉄道における非常制動(非常ブレーキ)による列車の制動距離は、600m以下を標準とする」とされている。これに対して、ゴムタイヤを使った自動車だと、時速100kmからブレーキをかけても100m前後で停止できる。

JR東日本は宮城県の気仙沼線BRT(バス高速輸送システム)で自動運転バスの走行試験を進めている
JR東日本は宮城県の気仙沼線BRT(バス高速輸送システム)で自動運転バスの走行試験を進めている

 この差が自動運転にとって大きいという。ブレーキの距離が最大で600mということは、600m先の障害物などをセンサーやカメラで把握する必要がある。しかし現状ではそのような技術がなく、「まずは300m手前で感知できないか研究を進めているところだ」(浦壁氏)。

 並行して、JR東はもう1つの自動運転技術の開発を進めている。BRT(バス高速輸送システム)だ。BRTとは連節バス、PTPS(公共車両優先システム)、バス専用道、バスレーンなどを組み合わせることで、速達性・定時性を確保したり、輸送能力を増大できたりする次世代のバスシステムのこと。JR東は東日本大震災で被災した三陸沿岸の大船渡線、気仙沼線について線路跡をバス専用道としたBRTで仮復旧し、20年4月に鉄道事業を正式に廃止した。

 地元からは鉄道での復旧を求める声が少なくなかったが、JR東は、もともと不採算路線だったことや、市街地が津波の来ない高台へ移転し、従来と同じルートで復旧させると利便性が低くなることを理由に挙げた。バスは鉄道と比べて車両の導入コストが低く、専用道の維持管理コストも線路より安い。

 そこで、BRTではニーズに合わせて市街地の運行ルートを変更し、区間によっては鉄道時代の3倍近い運行本数にした。鉄道では難しかった柔軟な運行スタイルで、地元住民の理解を求めたわけだ。

 ところが今、1つの壁に直面している。バス運転手のなり手が不足しているのだ。「被災地でトラックドライバーの需要が高まり、賃金面で移る人が増えた」とJR東の深澤祐二社長は話す。しかも短期的なものではない。「少子高齢化でこれからますます厳しくなる。できるだけ早く自動運転を実現させたい」(深澤氏)。

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