公共交通を維持する財源として「交通税」の創設を公約に掲げ、2022年7月の滋賀県知事選で3回目の当選を果たした三日月大造氏。近江鉄道の存続問題などに関わる中で、鉄道事業者や利用者の負担、国からの補助に頼るだけでは公共交通は立ちゆかなくなるという危機感があると語る。

滋賀県知事 三日月 大造[みかづき・たいぞう]氏
滋賀県知事 三日月 大造[みかづき・たいぞう]氏
1971年大津市生まれ、一橋大学経済学部卒。94年にJR西日本に入社。労働組合専従を経て、2003年に衆院議員に初当選(民主党所属)。09年に国土交通大臣政務官に就任し、10年には国土交通副大臣に。14年に滋賀県知事選挙に立候補して当選。国政から転じる。現在は3期目を務める。(写真=水野浩志)

 滋賀県は鉄道交通の要衝として発展してきました。これからも持続的に発展させるには、公共交通の利便性なくしては難しい。しかし今、人口減少や新型コロナウイルス禍による利用客の減少で減便が起きています。

 中でも、JR琵琶湖線(東海道線・北陸線)が21年10月と22年3月のダイヤ改正で減便されたインパクトは大きい。JR西日本からすると(京阪神)エリアの端っこかもしれませんが、滋賀県にとっては基幹の路線。長浜、米原、彦根、近江八幡、どの町も中心に駅があって京都や大阪と結ばれています。

JR琵琶湖線(東海道線の京都駅から北陸線の長浜駅までの愛称)では、新快速電車や普通電車の減便が相次いだ
JR琵琶湖線(東海道線の京都駅から北陸線の長浜駅までの愛称)では、新快速電車や普通電車の減便が相次いだ

 滋賀県南部は京都、大阪のベッドタウンとして発展してきて、数少ない人口増加地域です。どれくらいの運行頻度でどれくらいの所要時間なのかが、選ばれる街になるかどうかの分岐点になります。資産価値にも直結し、死活問題と言えます。県内の市町村に意見を聞くと「不便になった」「以前の運行本数に戻してほしい」という話をたくさん聞きます。

 滋賀県ではもう1つ、近江鉄道の存廃問題があります。約120年の歴史がありますが、施設や車両の老朽化が進んでいました。16年ごろから議論を始めて、鉄道施設を県を含む沿線自治体が保有する「上下分離方式」で存続させることを20年3月に決めました。コロナ禍の後だったなら、この合意形成はさらに難しくなっていたと思います。

 近江鉄道は総延長が約60キロメートル、33駅あります。全線の輸送密度(1キロメートル当たりの1日平均利用人員。平均通過人員とも言う)は1902人(17年度)ですが、1000人に満たない区間もある一方で、近江八幡(同県近江八幡市)~八日市(同県東近江市)間は4681人(同じく17年度)と相当の利用があります。企業や学校が沿線に立地し、通勤通学の足として使われているのです。この区間をバス転換したら、バスが何台も必要になり、運転手も必要でコストが余計かかる。交通渋滞も招きます。鉄道のほうが合理的な区間です。

 一部をバス転換し、鉄道を部分的に残すことも検討しました。しかし、鉄道の新たな車庫をどこに置くのか、バスが何台必要になるのかなどを考えていくうちに、鉄道を全線残したほうが効率的な運営ができるという結論に達しました。

 沿線には5つの市と5つの町があります。単体の市町村だとエリアが限られ「俺たちの町には必要だけれども、あっちから先はいらない」といった議論になりがち。だから広域自治体である県が乗り出す意味があります。交通ネットワークという観点で議論するのが大事で、県が入らなければ合意形成はできなかっただろうと思います。

 滋賀県で上下分離をやったことはないですし、全国的にも前例は少ない。コストもかかれば、リスクもあります。沿線市町とは、とにかく安全が大事だと議論しています。鉄道設備と車両を、自治体が責任を持って守っていけるのか。手間もかかりますが、街づくりという観点でこれから可能性があるテーマだと思います。今は、鉄道資産を引き継ぐ組織作り(編集部注:「近江鉄道線管理機構(仮称)」)に向けて対話を重ねているところです。

 県が維持管理費用の約半分を負担するということで近江鉄道の全線存続が決まったわけですが、私の政治リスクは大きかった。県西部や県北部の県民には関係がない話ですから。「なぜ県が費用の半分も持つのか」と政治争点化されていたら厳しかったでしょう。

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