赤字ローカル線の存廃議論が巻き起こるなか、沿線自治体の首長からは「廃線の議論には乗れない」「JRが責任を持って運行を続けるべきだ」といった声も多い。地域交通政策の専門家で、国土交通省の検討会メンバーにも加わった加藤博和・名古屋大学大学院教授は、「自治体が主体的に協議に関わらなければ、住民にとって真に便利な公共交通はつくれない」と説く。

名古屋大学大学院環境学研究科 付属持続的共発展教育研究センター 臨床環境学コンサルティングファーム部門教授 加藤博和[かとう・ひろかず]氏
名古屋大学大学院環境学研究科 付属持続的共発展教育研究センター 臨床環境学コンサルティングファーム部門教授 加藤博和[かとう・ひろかず]氏
1970年岐阜県多治見市生まれ、名古屋大学大学院工学研究科修了。地域公共交通の活性化や再生の研究や実践を続けている。国土交通省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」「アフターコロナに向けた地域交通の『リ・デザイン』有識者検討会」に委員として参加。この2つの検討会の提言を受けて具体化を目指す「交通政策審議会交通体系分科会第20回地域公共交通部会」では部会長代理を務める。

 今回、国土交通省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」(以下、検討会)に委員として参画しました。そこで、輸送密度(1キロメートル当たりの1日平均利用客数。平均通過人員とも言う)1000人未満の線区について、国の主導で「特定線区再構築協議会(仮称)」(以下、特定線区協議会)を立ち上げられるようにすることが提言に盛り込まれました。しかし、2007年に施行された「地域公共交通活性化再生法」でも、地方自治体が主体となって交通事業者も参加する法定協議会を立ち上げることはできるのです。

 ローカル鉄道を何とかしなきゃいけないなら、いい知恵を出すために自分たちで協議組織をつくるのは当たり前です。しかし、自治体側は、ローカル鉄道の再生は結果が出るか分からないし、廃線の引き金を引くことになりかねない、新たな支出も必要になるだろうと考えています。だから首長は及び腰で、先送りにしてきたのがこれまでの経緯です。国が輸送密度1000人未満という基準を作って、半ば強制的に特定線区協議会を立ち上げる仕組みにしてもらったほうが楽だというわけですね。でもこれって恥ずかしいことだと私は思います。

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