都心へ出勤する人がコロナ前の5~6割にとどまっている。運賃収入の多くを定期券で得ていた都市圏の鉄道会社は青息吐息だ。終電前倒しでは減らし切れない固定費。必死の生き残り策を探る。

富士通、全日本空輸(ANA)、キリンホールディングス、ホンダ、KDDI──。名だたる企業で今、通勤手当の廃止が進んでいる。テレワークの浸透で通勤の頻度が減少。実費精算にしたほうがコストを減らせると踏んだ企業が、コロナによる一時的なものから恒久的な制度へとかじを切った。
スマートフォンの位置情報を分析するAgoop(東京・渋谷)のデータを追うと、「通勤需要半減」の現実が浮かび上がる。平日の朝8時台に都心の主要駅周辺(半径500m圏内)に滞在する人の数は、新型コロナウイルスの感染が広がる前と比べ5~6割の水準で頭打ちが続く。同社の柴山和久社長は「企業も社員も、わざわざ通勤しなくても業務ができると気付いた。テレワークはこのまま定着するだろう」と見る。
三菱総合研究所(MRI)の6月の調査では、「コロナが収束しても通勤したくない」と回答した人が東名阪で22.3%に達した。通勤を避けたい社員と、通勤手当やオフィスのコストを減らしたい企業の利害は一致している。これに戦々恐々としているのが鉄道会社だ。
緊急事態宣言の期間が重なった4~6月期は、鉄道大手18社全てが最終赤字だった。一時的な需要減で収まるとの期待は崩れ去り、「テレワークの浸透で一定の利用が戻らない前提で考えなければいけない」(東武鉄道の池田直人営業統括部長)状況に追い込まれた。通期の売上高が4割減る見通しを示す鉄道会社も出てきた。
大都市圏の大手私鉄の場合、運賃収入に占める定期券の割合は4~5割に達する。「首都圏の大手私鉄の場合、運輸収入が2017年比で70~80%を下回ると損益分岐点を下回る」(MRIの郡司倫久氏)。通勤需要の半減で事業が成り立たなくなる可能性が出てきた。
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