ひしゃげたレール、跡形もなく崩れたホームや待合室――。まるで爆撃を受けたかのような惨状を目の当たりにして言葉を失った。ここはJR肥薩線の瀬戸石駅(熊本県八代市)。2020年7月豪雨による球磨川の氾濫に飲み込まれ、壊滅的な被害を受けた。8月26日、JR九州は災害から2年経過した今も不通が続く肥薩線の被災現場を、初めて報道陣に公開した。さび付いたレールの間からたくましく伸びた雑草は、列車が来なくなって久しい現実を映し出している。

 沿線では住宅を再建するつち音が響き、道路や橋も仮復旧が進んでいる。にもかかわらず、鉄道だけは2年間、時の流れが止まったままだ。

瀬戸石駅の被災現場。ホームや待合室は跡形もない
瀬戸石駅の被災現場。ホームや待合室は跡形もない

 肥薩線を復旧させるかどうか、JR九州と国土交通省、地元の熊本県の間ではいまだに結論が出ていない。運営するJR九州は「慎重に検討していく必要がある」(地域戦略部の上符友則部長)などと後ろ向きな発言を繰り返している。背景にあるのは被災前の19年度、現在不通となっている八代(熊本県八代市)~吉松(鹿児島県湧水町)間で年間約9億円という営業赤字を出していたこと、そして何よりも利用客が少なく、公共交通機関としての体をもはや成していないことだ。

 ここ数年、JR各社が赤字線区の輸送密度(1キロメートルあたりの1日平均旅客輸送人員。平均通過人員とも言う)に加えて、収支を公表し、社会的議論を巻き起こしている。JR九州は肥薩線に関してはさらに、通勤定期利用客、通学定期利用客などの内訳、各駅の利用人数といった詳細なデータも開示した。その数値は惨憺(さんたん)たるものだ。

 国鉄分割民営化によりJR九州が発足した1987年度、八代~人吉(熊本県人吉市)間の輸送密度は2171人。通勤定期利用客が138人、通学定期利用客が255人、普通乗車券の利用客が1778人である。これに対して、被災前の2019年度の輸送密度は414人。87年度と比較して81%も減っている。

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