JR四国が2014年から愛媛県で運行している観光列車「伊予灘ものがたり」が、22年春、新車両に更新されることになった。乗客減に苦しむ地方ローカル線の活性化のために鉄道各社が取り組む観光列車だが、収益性が高いとは必ずしも言えない。伊予灘ものがたりは観光列車としては後発だが、9割近い乗車率をキープ。車両更新という再投資を可能とするほどの成功事例になった。JRの中では事業規模が最も小さく、厳しい経営環境に置かれているJR四国。伊予灘ものがたりは外部の有名デザイナーに頼らず、社内の力を結集して作り上げたところも特徴だ。社内デザイナーとして観光列車のコンセプト作りから関わってきた松岡哲也氏に成功の理由や今後の展開を聞いた。

 旧国鉄が分割民営化されたJR6社の中で、最も規模が小さいのがJR四国だ。四国4県を営業エリアとし、路線の総延長は853.7㎞。7401.7㎞の路線を運営するJR東日本と比べると、その規模は約9分の1だ。

運行開始から7年間で13万人が乗車した「伊予灘ものがたり」。伊予灘(瀬戸内海)沿いを走る
運行開始から7年間で13万人が乗車した「伊予灘ものがたり」。伊予灘(瀬戸内海)沿いを走る

 売上高を比較するとその差はさらに開く。JR四国の21年3月期連結売上高は277億円。同期の売上高が1兆7645億円だったJR東と比べると、60分の1以下しかない。大都市の通勤輸送や長距離の新幹線で稼ぐJR東に対し、JR四国の事業エリアには政令指定都市が1つもない。輸送の需要が限られるだけでなく、駅ビルや不動産といった関連事業にも限界がある。

 会社発足以来、JR四国が営業黒字になったことは1度もない。国から与えられた「経営安定基金」の運用益で穴埋めする状況が続いている。ほぼ全路線が不採算のローカル線で、これまで唯一黒字だった瀬戸大橋線までもがコロナ禍で赤字に転落した。新幹線の開業計画もなく「経営危機が表面化しているJR北海道よりも実は先行きが厳しい環境」(JR関係者)ともいわれる。

 そんなJR四国がここ数年力を入れているのが「ものがたり列車」と名付けられた観光列車だ。14年7月に第1弾となる「伊予灘ものがたり」を松山駅(松山市)~八幡浜駅(愛媛県八幡浜市)で運行開始。伊予灘(瀬戸内海)沿いの線路を走り、車内では沿線のレストランによる料理を楽しめるのが売りだ。これが好評だったことから、17年からは「四国まんなか千年ものがたり」を多度津駅(香川県多度津町)~大歩危駅(徳島県三好市)で、20年からは「志国土佐時代(トキ)の夜明けのものがたり」を高知駅(高知市)~窪川駅(高知県四万十町)で、それぞれ運行している。

 運行開始から7年が経過した伊予灘ものがたりは、今年12月で現行車両を引退させ、22年春から新たな車両を登場させることが決まった。観光列車でこのような再投資が行われるのは、実は珍しい。

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