博多から距離があるため新幹線が開通すれば時短効果が期待できる長崎県と比べ、さほどメリットがない佐賀県内の自治体は以前から冷めた目で新幹線を見ていた。
JR九州が1996年、在来線である長崎本線の肥前山口(佐賀県江北町)~諫早(長崎県諫早市)間の経営分離を表明したことをきっかけに、沿線自治体が反対運動を展開した。2004年、当時の佐賀県知事の古川康氏が経営分離を容認したが、沿線の鹿島市、太良町、江北町は経営分離に不同意の立場を取り続けた。着工には並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意という条件が課せられていたため、05年度と06年度に新幹線建設のための国の予算として10億円が内示されたものの、執行されなかった。
沿線自治体の同意を飛ばして着工を決定
佐賀県と長崎県、JR九州は、膠着状態を打開する一手を繰り出した。経営分離を表明していた区間について、鉄道施設の維持・管理は佐賀県・長崎県に移管するが、鉄道の運行はJR九州が引き続き20年間行うと決めたのだ。運行とインフラを分離する上下分離と呼ばれる手法だ。
JR九州のコスト負担は軽減される一方、利用客からすれば運賃などに大きな変化はない。つまり経営分離には当たらないとして、沿線自治体の同意は不要となった。当時の鹿島市長、桑原允彦氏は日経ビジネス08年6月9日号「敗軍の将、兵を語る」で以下のように無念さを語っている。
もともと、並行在来線の経営分離に我々が同意しないと新幹線の建設には着工できないというルールでした。ところが07年12月17日、長崎県、佐賀県、JR九州の3者が、「新幹線開通後も20年間はJR九州が引き続き並行在来線の運行を行う」という合意を発表しました。この3者合意により、経営分離には当たらないと解釈され、我々には何の説明もなく頭越しに着工が決まってしまいました。
しかし、この3者合意の内容を見ると、運行本数は大幅に減少します。結局、実態は以前から示されていた第3セクターによる経営分離案と変わりません。地域の足の確保という観点から重大な影響があるにもかかわらず、私たち沿線自治体の意向が反映されることはありませんでした。
私どもからしてみると、裏切られたという思いがあります。

JR九州が運営を続けることになった肥前山口~諫早間の19年度の乗客数は1日平均7780人。その多くは、1日約20往復する特急列車の乗客で、新幹線開業後は大幅な減少が見込まれている。JR九州としては運営が苦しいケースのようだ。
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