JR九州首脳は「部分開業の時点で残りの区間の方向性すら決まっていないのは想定外」と話す。静岡県がリニア中央新幹線の着工に同意せず、27年に予定していた開業の遅れが確実視されているが、地元とJRで一体になれない構図が西九州新幹線でも見られる。

佐賀県側にはどのような事情があるのだろうか。
リニア中央新幹線の場合、JR東海が建設費を自己負担するため、静岡県が問題視しているのは大井川の水量など自然環境への影響に限られている。これに対して西九州新幹線では、整備新幹線のスキームにのっとり、JR九州が支払う貸付料(線路使用料)を除く建設費の3分の2を国が、残りの3分の1を地元自治体が負担する。この地元自治体が佐賀県だ。
仮に新鳥栖~武雄温泉間を通常の新幹線である「フル規格」で整備すると、地方交付税での穴埋めを除く佐賀県の実質負担額は660億円にのぼる。博多~佐賀(佐賀市)間は在来線特急によってわずか35分で往来でき、新幹線になっても約15分程度の短縮効果しかないという。そのために高額な費用を負担するのは見合わないというのが、佐賀県の言い分だ。
それだけではない。新幹線開業後、JRは並行して走る在来線の運営から手を引くことがある。九州新幹線の場合、利用客が少ない新八代~川内(鹿児島県薩摩川内市)間は沿線自治体などが出資する第3セクターが運営を引き継いだ。特急列車が消えてローカル線となった鉄道路線の運営は、地元にとって重荷になりかねない。
「フリーゲージトレイン」でいったん決着
こうしたことから、佐賀県は当初、新鳥栖~武雄温泉間の新幹線建設を拒否した。線路の幅が異なる新幹線と在来線のどちらでも走れる「フリーゲージトレイン」を開発し、乗り換えなしに博多~長崎間を結ぶことで決着していた。
ところが18年、フリーゲージトレインの最高時速が270㎞にとどまり、300㎞で走る山陽新幹線への乗り入れが困難であることなどを理由に、開発が断念された。与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(与党PT)やJR九州、長崎県は全線フル規格が妥当と主張。「フル規格新幹線を求めていない」という佐賀県の山口祥義知事との対立が起きた。
佐賀県は現在、国が断念を表明したフリーゲージトレインや、在来線の線路の幅だけを新幹線と同じにして乗り入れるミニ新幹線なども並行して検討する「幅広い協議」を要求している。フル規格の場合も、在来線と並行する佐賀駅経由だけでなく、長崎自動車道と並行する北ルート、佐賀空港を経由する南ルートも検討するよう求めている。
JR九州首脳は「利用者が多い佐賀駅を経由するのがベスト。利用者が少ないうえに遠回りな他のルートを選ぶ理由が見当たらない」と話す。この点も静岡県が求めるルート変更の検討をJR東海が拒否しているリニアとよく似た構図だ。
難産続きの西九州新幹線
そもそも西九州新幹線は、22年秋に開業を控える武雄温泉~長崎間を巡って、無理を重ねて建設にこぎつけた経緯がある。
Powered by リゾーム?