JR西日本は2021年3月期に2332億円の連結最終赤字となった。1987年の民営化による会社発足以来、最大の赤字だ。22年3月期はわずかながら最終黒字に転換する見通しを公表した。通勤や出張の需要が元には戻らないとみられる中、どうやって業績回復を図るのか。連載の最終回は、長谷川一明社長に経営の現状と方針を聞いた。

<span class="fontBold">長谷川一明(はせがわ・かずあき)氏</span><br />1981年東京大学法学部卒、旧日本国有鉄道に入社。分割民営化でJR西日本に所属し、2008年に執行役員岡山支社長。12年、取締役兼常務執行役員近畿統括本部長、16年に代表取締役副社長兼執行役員創造本部長となり、19年に社長に就任(撮影:山田哲也)
長谷川一明(はせがわ・かずあき)氏
1981年東京大学法学部卒、旧日本国有鉄道に入社。分割民営化でJR西日本に所属し、2008年に執行役員岡山支社長。12年、取締役兼常務執行役員近畿統括本部長、16年に代表取締役副社長兼執行役員創造本部長となり、19年に社長に就任(撮影:山田哲也)

2022年3月期は経常利益ベースでは50億円の赤字で、不動産の売却益で30億円の最終黒字を確保する計画です。安定的に収益を確保できるところまでは戻りません。

長谷川一明・JR西日本社長(以下、長谷川氏):21年3月期は会社発足以来、最大の赤字となりました。鉄道事業は人々に移動していただくのが前提ですが、ステイホームがほぼ1年間ずっと続いてしまいました。ビジネスの根底が崩れ、大変厳しい状況です。

 22年3月期についていろいろな見方があるとは思いますが、まず7月末までは今のような非常に厳しい状況が続くと考えています。7月末には高齢者に対するワクチン接種がほぼ終わり、その他の世代でも接種が進む。8月から10月まで3カ月かけて、平年の9割ぐらいまで利用が戻ってくるというのが業績予想の前提になっています。

 鉄道事業単独の売上高営業利益率は、コロナ前で十数%でした。つまり平年の9割くらいにまで利用が回復すれば、赤字からの脱却が見えてきます。しかし新型コロナでテレワークなどが定着してきており、従来通りの利用が完全に戻るとは想定しにくい。ですから採算分岐点を下げるような構造改革をしていかなければなりません。

具体的には、どのような改革が必要でしょうか。

長谷川氏:前提として申し上げておきたいのは、お客様の安全・安心は事業が成立する大前提であるということです。弊社は05年に福知山線脱線事故を起こしました。ですから安全投資に関しては、これからもどの鉄道事業者よりも強い思いを持って取り組んでいかなければならない。厳しい経営環境ですが、何とか経営資源を集めて、ここは必ずやっていきます。

 コロナ禍で明らかになった課題は大きく分けて2つあります。

 1つは、事業ポートフォリオの偏りです。事業の多角化として駅ビル・駅ナカ事業やホテル事業に力を入れてきましたが、これらは鉄道の利用客を中心にしています。これまでは、お互いが相乗効果を発揮し、いい形で好循環を生んできたのですが、コロナ禍で根っこが揺らぎ、全てが機能停止してしまった。旅客事業だけに頼らない事業が必要ではないかと考えており、新幹線を使った荷物輸送や、物流倉庫への不動産投資などを始めています。

山陽新幹線や北陸新幹線を使った地方産品の輸送に乗り出している
山陽新幹線や北陸新幹線を使った地方産品の輸送に乗り出している

 もう1つは、鉄道事業に柔軟性が欠如していることです。我々は車両・線路・駅設備などのインフラを自前で持ち、社員もたくさん抱えています。装置産業であると同時に、労働集約産業でもあります。非常に固定費が高い。

 加えて、鉄道は許認可事業で、社会的にも安定性が求められてきました。そのことは、保守的で変化に乏しい社風と裏腹の関係にあると言えます。しかし、コロナ禍で社会のニーズは大きく変化しています。提供するサービスを変えていかなければ、利用客から支持されなくなる危機感を持っています。

巨大な設備・人員を有する鉄道事業は需要の変動に弱く、コロナ禍で多額の赤字を計上している
巨大な設備・人員を有する鉄道事業は需要の変動に弱く、コロナ禍で多額の赤字を計上している

トライ・アンド・エラーを許容する

20年春から割引切符を矢継ぎ早に企画しているのも、その危機感からでしょうか。

長谷川氏:20年1月末に新型コロナの対策本部を設置し、私が本部長になりました。春の早い段階で「これまで通りでは需要は獲得できない。このピンチをテストマーケティングの場と捉えて自由にトライアルしてみよう」という方針を打ち出しました。

 私も鉄道営業を長年担当していたので分かるのですが、割引切符ひとつを企画するにも、緻密な需要予測を立てて社内決裁を何度も通し、発売の1カ月前には準備を終えなければなりませんでした。一度出した商品をすぐにやめてしまっては、利用者にも駅の現場にも混乱を招くという考えがあったからです。ここでも安定性が重視されてきました。

 しかしコロナ禍では、密回避、テレワークといった今までにはなかった需要が生まれています。未知のものだから予想の立てようがありません。ならばとりあえず出してみて、売れ行きが悪ければやめればいいのではないかと割り切りました。朝令暮改とまでは言いませんが、トライ・アンド・エラーを許容しようと決めたわけです。

 そうすると早速、「密回避のためにワンコインで特急列車に乗れるようにできないか」という意見が若手社員から上がってきました。「売れるか売れないか議論するのではなしに、とにかく出してみよう」と、20年6月にすぐ商品化しました。

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