4月15日に運賃改定を申請した近畿日本鉄道。関西から三重、名古屋まで広がる私鉄最長の路線網を有し、通勤や通学、輸送だけでなく都市間移動、観光利用も多い鉄道会社だ。鉄道事業に限ればJRに近い側面があり、沿線人口の減少が大きな課題になっている。成長が期待できるのは沿線外からの観光利用に限られることから、マーケットが大きい首都圏を攻略すべく、新たな取り組みが始まった。

 4月29日、近畿日本鉄道は大阪、奈良、京都を結ぶ観光特急「あをによし」の運行を始めた。天平時代の高貴な色とされる紫色の車体が特徴で、車内にはゆったりとしたソファ席や4人用の半個室を備える。近鉄グループのシェラトン都ホテル大阪で当日の朝に作った車内限定スイーツや、同じく近鉄グループが醸造するクラフトビールなどを販売する売店も設けられている。

「あをによし」は製造から約50年経過した特急車両を改造した。新造に比べ3分の1のコストに抑えた
「あをによし」は製造から約50年経過した特急車両を改造した。新造に比べ3分の1のコストに抑えた

 運行経路はかなり遠回りとなる。朝9時半ごろに大阪難波駅を出発し、近鉄奈良駅を経由して京都駅へ。所要時間は1時間20分と長い。その後、京都駅と近鉄奈良駅の間を2往復する。午後3時台に京都駅を出発して、近鉄奈良駅経由で大阪難波駅へと戻る。大阪と京都を乗り換えなしで結ぶ近鉄の特急列車は1992年以来、30年ぶりの復活だ。「乗り通す」というより、大阪~奈良間、京都~奈良間の移動が大半とみられる。

 大阪難波駅~近鉄奈良駅間は約40分、京都駅~近鉄奈良駅間は約35分と、いずれも1時間もかからない。短い距離であるにもかかわらず、3億3000万円を投じて特別な車両を導入するのはなぜか。

 近鉄は4月15日、新型コロナウイルス禍を背景とした運賃改定を申請した。大手私鉄の運賃改定は東急電鉄に続いて2番目となる。2023年春には平均17%の値上げを予定する(参考記事「23年春にJR東西、東京メトロも値上げへ 改定手法は各社各様」)。

 テレワークの定着など行動変容による鉄道利用減が大きい東急に対し、近鉄は沿線人口の減少が経営を圧迫している。運賃改定の前提となる需要見通しによると、通勤定期の利用客はコロナ禍で急減した20年度の年間1億9700万人を上回ることはなく、1億8000万人台へと減少し続けると想定している。

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