新型コロナウイルスの影響で運休していたJR西日本の豪華寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(みずかぜ)」が4月14日、約1年2カ月ぶりに運行を再開した。再開まで時間を要した一因となったのが、アフターコロナを見据えたサービスの見直し。特に大きかったのが、食堂車での食事をやめたことだ。

 「902号室の料理ができたから、すぐに運んで」。サービスクルーが料理を載せた盆を手に取り、1秒でも無駄にはできないとすぐ客室に向かう――。1年前まで、乗客をもてなす空間だった瑞風の食堂車は、今ではさながら戦場の様相を呈している。

 瑞風は新大阪駅を発着し、山陽本線と山陰本線を1泊2日もしくは2泊3日のツアー形式で運行する。旅行代金は最も安くて32万5000円、最も高いプランは132万5000円(いずれも税込み。1室2人利用の1人分)だ。

 2017年6月の運行開始以降、極めて高額にもかかわらず富裕層を中心に人気を集め、コロナによって20年2月29日から運休するまでの2年8カ月の間に、約6600人が列車の旅を楽しんだ。

食事はお盆に載せて客室まで運ばれていく

 「美しい日本をホテルが走る。」をコンセプトにした瑞風の売りの一つが、JR西が15年まで大阪~札幌間で運行していた寝台列車「トワイライトエクスプレス」の伝統を受け継いだ食堂車「ダイナープレヤデス」だ。

 京都の和食「菊乃井」、大阪のレストラン「HAJIME」といった名店が監修した手の込んだ料理を車内で提供。ツアー参加者の半数ずつ(約20人)が同じ空間で食事をする体験は、乗客の一体感を高める重要な要素の一つになっていた。

 ところが4月の運行再開に当たっては、感染予防対策を徹底すべく、乗客が滞在する個室で食事をする部屋食スタイルに変更することになった。食堂車の椅子やテーブルは撤去され、食材の盛り付けを行う作業スペースへと様変わり。サービスクルーに配膳の指示を出す支配人の樺山高弘氏は「以前は食堂車で乗客に自ら接客していたが、今では完全に裏方になった」と苦笑する。

テーブルが撤去され、作業場へと変わった食堂車。車内中央に飾られた花瓶いっぱいのバラだけが、以前の姿をしのばせる

「食堂車がなければ瑞風ではない」

 食事のスタイルを大きく変える決断に至るまでには葛藤があったという。

 JR西の瑞風推進事業部で部長を務める魚本佳秀氏は「運休が長引き、そのまま20年6月から11月末まで予定されていたメンテナンス期間に入ることが決定的になった。運休が7~8カ月続く中で、以前と同じ接客スタイルで運行を再開していいのか、という議論が出てきた」と振り返る。

 乗車人数を減らして密を避ければ手っ取り早く再開できるが、コロナで暮らしや消費のありようが変わる中、鉄道旅行に求められるサービスの姿も変わるのではないか、と考えたのだ。

 同じ豪華寝台列車であるJR九州の「ななつ星 in 九州」とJR東日本の「トランスイート四季島」はいち早く20年の夏に運行を再開。感染症対策をしながら食堂車での提供を継続していたが、JR西は自分たちの道を探ろうとしていた。

 しかし「実際に接客する現場からは部屋食に対する反対の声が少なくなかった」と魚本氏は話す。

 理由は2つある。1つは、瑞風の車内で提供される料理は、繊細な盛り付けや緻密な温度管理が売りだ。食堂車から離れた個室に、その状態を保って運ぶのは困難という物理的な問題。もう1つは、食堂車はトワイライトエクスプレスの伝統を受け継ぐ重要な要素であるため、「食堂車で食事を提供できないなら、それは瑞風ではない」という声だった。

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