JR東日本と西日本が、IC通勤定期券の利用者を対象に時差通勤によるポイント還元サービスを始める。実質的な値引きで混雑がどの程度平準化するかを検証し、将来的な時間帯別運賃の導入へとつなげたい考えだ。その一方で、コロナ禍による経営の悪化で終了するポイントサービスも増えている。

(写真:PIXTA)

 JR東日本は3月から、Suicaを使って乗車するとポイントがたまるサービスを開始した。「多様化する通勤スタイルに応じた」(同社)と言い、「リピートポイントサービス」と「オフピークポイントサービス」の2つを提供する。たまるポイントは「JRE POINT」で、Suicaへのチャージや駅ビルや駅ナカの加盟店での支払いに使える。

 リピートポイントサービスはJR東の在来線でSuicaが利用できるエリアすべてが対象。チャージ残高で同一運賃区間を月10回以上利用すると、10回目に1回分相当、その後は1回ごとに10%相当のポイントが付与される。10枚分の料金で11枚つづりの回数券に似た割引だ。テレワークの浸透で通勤の頻度が減っている人に合ったサービスと言える。

 「同一運賃区間」というのはやや聞きなれない用語だ。一つ例に挙げて説明しよう。普段、ICカードで157円の渋谷~新宿間をよく利用しているとする。その区間内の一部、渋谷~代々木間だけを利用した場合は、136円なのでリピート利用にはならない。しかし東京~上野間を使うと、渋谷~新宿間と同じ157円なのでリピート利用になる。つまり、乗車駅や降車駅にかかわらず、運賃が同一の利用ごとにカウントしていく仕組みだ。

 同様のポイントサービスは、すでにJR西日本が18年10月から「ICOCAポイントサービス」として近畿圏などのICOCAエリアで導入済み。JR西によると、紙の回数券と似た割引を入れることでICカードの利用率向上を狙ったという。21年1月末時点で、ICOCAの発行枚数2451万枚の1割強にあたる294万枚がポイントサービスに登録されている。ICOCAによる利用率(定期券除く)はサービス開始前の6割強から、7割弱まで右肩上がりに増えているという。近畿圏よりも早くICカードが導入された首都圏ではそれを上回る利用率となっており、定期券でSuicaを利用していた人が紙の回数券へ逆戻りすると、せっかく減っていた券売機や磁気券用自動改札機のメンテナンスコストが増える可能性がある。Suicaの利用率を維持しながら、定期券に代わる割引サービスを導入する必要があった。

時差通勤で1回20円前後が付与される

 この3月に始まったSuicaのもう1つのポイントサービスが、オフピークポイントサービスだ。これは首都圏のSuica通勤定期券の利用者が対象で、平日の朝の混雑時間帯より前の1時間に乗車すると15円相当、混雑時間帯の後の1時間に乗車すると20円相当が付与される。通勤利用のピークを迎える時間帯は郊外と都心では異なるため、オフピークの時間帯は駅ごとに設定されている。例えば、郊外の大宮駅なら6時45分より前と8時15分より後だが、都心の渋谷駅なら7時20分より前と8時50分より後となっている。ポイントを得るには、専用サイトでのエントリーが必要だ。

 4月1日からはJR西も似たようなポイントサービス「ICOCAでジサポ」を近畿圏で始める。ICOCA通勤定期券の利用者が、大阪、天王寺など大阪環状線の駅を中心とする33駅で平日の朝9時15分~10時30分に下車すると、20円相当のポイントを付与する。前述の通り、すでにチャージ残高で乗車するとポイントがたまるサービスは行われていたが、定期券利用者にポイントを付与するのは初めてだ。

 JR西の宮川鎌次・営業本部担当課長は「コロナ禍を受け、朝の通勤時間帯の混雑を緩和するのが狙い」と話す。ポイントを付与することで、朝のピーク時間帯より後の時間へ利用をシフトさせようというわけだ。利用者にとっては密を回避し、ポイント還元を得られるメリットがある。鉄道事業者としては、混雑を平準化できれば、ピークに合わせて用意している車両や要員の配置を見直すことができ、中長期的なコスト削減につなげられる。

 JR東、JR西とも似たようなサービス設計だが、細かい点で違いがある。まず、JR東はポイント付与対象をピーク時間帯の前後1時間ずつに設定しているのに対して、JR西はピーク時間帯の後だけだ。この点について宮川氏は「コロナ禍でこれまでのピーク時間帯よりも前の時間帯に利用がシフトする傾向がすでに見られている。恐らく勤務開始時間を変えられない人が、密回避のために早めに出勤しているのだろう」と見る。ポイント付与は実質的な割引であり、原資は限られている。効果的に使うには、すでにシフトが起きている早朝時間帯を対象にするのは得策ではないと判断した。

 ただ「当初9時30分からを予定していたが、9時15分からに前倒しすることにした」(宮川氏)。大阪駅や天王寺駅から地下鉄に乗り換えて勤務先へと向かう人も多く、9時30分以降にすると出社時刻が10時を過ぎる可能性がある。出社時刻を9時から10時に遅らせることは比較的容易だが、それ以降にずらすのはハードルが高いと考えた。また、ポイント付与を10時30分までに限ったのも、「10時30分以降に利用する人は、勤務時間が比較的自由であるなど、もともとその時間に乗っている可能性が高い」(宮川氏)ため。時間を区切ることで、ポイントを獲得しようと通勤時間を早めようとする人は出るかもしれないが、そのパイは小さいだろうと判断した。

続きを読む 2/2 経営悪化で廃止になるポイントサービスも

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