3月6日に福岡県の西日本鉄道が運賃値上げに踏み切った。コロナ禍で利用客が減少していることを理由とした値上げは、JRや大手私鉄では初めて。ただし一部区間に限られ、他社の追随も今のところない。国土交通省に運賃値上げの認可を受けるためには、3年間赤字が続く見通しを示す必要があり、ハードルが高いからだ。そこで各社はまず、割引切符や回数券を廃止することで「実質値上げ」に踏み出した。

 3月6日、西日本鉄道の一部の区間の運賃が値上げされた。天神大牟田線(西鉄福岡(天神)~大牟田)では片道7~17キロメートルの区間が対象になり、例えば10~13キロメートルの区間が290円から310円になる。貝塚線(貝塚~西鉄新宮)では4~11キロメートルの区間が対象で、10~11キロメートルの区間の場合、270円から310円への40円の値上げだ。普通乗車券、ICカード、回数券などが対象で、定期券の値段は変わらないが、利用者の14%に当たる1日4万人が値上げの影響を受けるという。

 値上げの理由について西鉄は「新型コロナで利用客が減少している中、今後も持続的な輸送サービスを提供し続けるため」としている。いよいよコロナ禍が運賃値上げにまで波及してきた。

 コロナ禍から約1年で値上げが可能になったのはなぜか。実は値上げ対象の区間は、国土交通省から認可されていた金額よりも安く運賃を設定していた。国交省が認可する運賃は「上限運賃」と呼ばれており、鉄道事業者の裁量で、それを下回る運賃を設定するのは自由。今回は値上げといっても、もともと認可されていた上限運賃にするということにすぎない。

 西鉄に追随する会社が出てこない理由はここにある。同じく福岡に多くの路線を持つJR九州は「上限運賃を下回る運賃設定の区間は当社にはなく、すぐに値上げをするのは無理だ」と話す。上限運賃そのものを値上げするとすれば、国交省の認可が必要となる。国交省によると、3年間の収入と原価を基に運賃を決めるという。関係者は「値上げが認められるのは鉄道事業で3年間赤字が見込まれる場合。とてもハードルが高い」と口をそろえる。

 JR各社の中でコロナによる値上げの検討を公式に表明しているのはJR四国だけだ。同社は1987年の会社発足以来、1度も営業黒字になったことがなく、国から与えられた「経営安定基金」の運用収益で穴埋めしている状態だ。今後も鉄道事業の赤字が続くことは確実で、国交省も値上げを認めるとみられる。

 これに対して、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州の上場4社は微妙な立場だ。コロナ禍の前は新幹線や都市部の収益でローカル線の赤字をカバーし、営業黒字を続けてきた。現状は赤字に転落しているが、3年後までコロナの影響がどの程度あるのかを見通すのは難しい。現時点では運賃を値上げできる段階にはないというわけだ。

 とはいえ、足元では大幅な赤字で、資金の流出が続く。一刻も早く止血する必要がある。そこで各社が取り組んでいるのが、割引切符の見直しだ。

続きを読む 2/2 新幹線回数券が続々と廃止に

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