2001年のサービス開始から21年。Suica(スイカ)エリアがようやく岩手・秋田・青森3県に広がる。その裏にあるのがクラウド処理という新たな技術。チケットレス化は新たな段階に入る。
「Suica エリアデビューまで あと○日」――。岩手県、秋田県、青森県の主要駅に今、こんなカウントダウンボードが掲げられている。

2001年11月にICカード「Suica」のサービスが開始されて21年が経過した。だが実は、開発元であるJR東日本の管内ですら、地方を中心にSuicaを利用できない在来線がまだ多い。5月27日に盛岡駅を中心とする18駅、秋田駅を中心とする17駅、青森駅~弘前駅の10駅(以上を北東北3エリアと呼ぶ)でサービスが始まり、Suicaの利用可能エリアがようやくJR東管内のすべての県に広がる(ただし県庁所在地に限ると、長野駅を中心とするエリアでは在来線でSuicaが利用できない)。
利用客が気づくことはないだろうが、5月に導入される北東北3エリアから、Suica始まって以来の大きな技術革新が起きる。運賃計算処理のクラウド化だ。
現行のSuicaでは入場時に乗車した駅名をカードに記録しておき、出場時に乗車駅からの運賃をカードから引き去る。その計算は自動改札の内部で瞬時に行われている。
ラッシュ時に大量の通勤客が押し寄せる新宿駅などでもスムーズに乗降客をさばくため、わずか0.2秒という短い処理速度が要求された。開発された01年当時、光回線などの通信網はそれほど整っていなかった。サーバーへの通信時間を考慮すると要件を満たすのは難しい。そこでローカル処理、つまり自動改札内で運賃計算をせざるを得なかった。そのうえでカードの利用履歴は一旦「駅サーバー」に集められ、さらに「センターサーバー」に集約させる仕組みとした。
高速処理を実現した半面、駅に何台もある自動改札機1台1台に運賃計算という“頭脳”を搭載するため、機器のコストは高くなる。また、新駅や新路線の開業、運賃改定などのたびに、運賃データを更新する手間が生じていた。センターサーバーから各自動改札機のデータを一斉更新するような仕組みはなく、現地で1台ずつデータを入れ替える必要があるという。現在、JR東管内でSuicaが使える駅は840駅で、自動改札機の数は約5000台。それだけの台数を、終電が出てから初電が発車するまでといった利用客に支障がない時間に一斉に作業しなければならない。
しかし運賃計算処理のクラウド化によって、その作業は過去のものになる。“頭脳”がセンターサーバー側に置かれるため、「改札機ごとの改修が不要になるのが一番のメリット」とJR東のマーケティング本部戦略・プラットフォーム部門システムユニットの中庭剛マネージャーは話す。明らかにしなかったものの、改札機のコストも下がるものとみられる。
では肝心の処理速度はどうなのか。現行と同様、0.2秒で処理が完了するかどうかを問うと、「現在開発中なので回答は差し控えるが、使い勝手が大きく変わらないことを目指している」(中庭氏)との答えだった。駅とセンターサーバーの間は原則として光回線を用いるが、45駅のうち36駅に設置される簡易Suica改札機(Suicaのタッチ部分だけがあるもの)の一部ではモバイル回線(LTE)を使うという。サービス開始から約20年間で起きた通信速度の向上が、センターサーバー化に踏み切る大きな要因になった。
実はJR東では、すでにセンターサーバーで処理をしているサービスがある。「新幹線eチケットサービス」だ。インターネット予約「えきねっと」で座席を予約しておけば、Suicaを自動改札機にタッチするだけで乗車できる。20年3月に導入された。
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