JR東日本は燃料電池を動力源とした水素ハイブリッド電車を試作し、JR東海は次世代バイオディーゼル燃料を使った走行試験を実施──。鉄道会社が政府の掲げる「2050年カーボンニュートラル」に向けて脱炭素への取り組みを加速させている。しかし鉄道業界においてCO2排出量の大半を占める運行用電力については、脱炭素への道筋が見えていないのが現状だ。

 JR東日本は3月下旬から、川崎市と横浜市を走る南武線・鶴見線において燃料電池を動力源とする水素ハイブリッド電車「HYBARI(ひばり)」の試験走行を始める。HYBARIは2両編成で、1両に水素貯蔵ユニットと燃料電池装置、もう1両にバッテリーとモーターを搭載。水素と酸素を反応させて発電した電力に加え、ブレーキをかけた際に生じる電力(回生電力)をバッテリーに蓄えて走行する。CO2排出量は「ゼロ」だ。JR東の大泉正一・研究開発センター所長は「2030年度までのCO2排出量50%減(13年度比)に向け、400両以上あるディーゼル気動車を置き換えていきたい」と意気込む。

JR東日本が開発した水素ハイブリッド電車「HYBARI」
JR東日本が開発した水素ハイブリッド電車「HYBARI」

 実はJR東は06年に1度、燃料電池を用いた試験車両を開発している。しかし「トラブルが多く、開発は一旦打ち切っていた」(大泉氏)。再開したのは10年後の16年ごろのことだという。その背景にあったのが、14年にトヨタ自動車が燃料電池自動車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を発売したこと。水素ステーションの整備も始まり「異なるモビリティー(移動手段)であっても、同じ技術を使うことが普及に重要だと考えた」と大泉氏は話す。HYBARIの開発にあたっては実際にトヨタの門をたたき、MIRAIの燃料電池技術を転用。一方、ハイブリッド駆動システムについては鉄道に知見を持つ日立製作所と共同開発した。

床下に搭載した燃料電池で発電して走行する
床下に搭載した燃料電池で発電して走行する

 燃料電池で走行する鉄道車両はすでにドイツで実用化されている。ただし線路の幅が日本の在来線(狭軌)よりも広く(標準軌)、車体も大きい。HYBARIは車体が小さい分、水素貯蔵ユニットに割けるスペースも狭い。そこで役に立ったのが、トヨタが開発した大気圧の約700倍(70MPa)で貯蔵できる技術だ。これはドイツの車両の2倍の圧力だ。屋根上に搭載した合計20本、約1000リットルのタンクに約40キログラムを充填でき、航続距離は約140キロメートルを確保した。大泉氏は「狭軌としては世界初」と胸を張る。

 もっとも、実用化に向けては大きく分けて3つの課題がある。

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この記事はシリーズ「佐藤嘉彦が読む鉄道の進路」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。