1月24日、近畿地方を襲った大雪によりJR京都線・琵琶湖線(東海道本線)で複数の列車が立ち往生。乗客約7000人が車内で缶詰めになり、中には降車が完了するまでに10時間近くかかる事態が発生した。JR西日本の長谷川一明社長は26日の記者会見で「降雪状況に対する事前の判断に誤りがあった」と陳謝した。しかし問われているのはむしろ事後、すなわち運行を停止してからの対応だ。
「運転士、車掌ともお客様に降りていただき、(最寄りの)桂川駅まで歩いていただくのがベストだと意見は一致しておりますが、指令に要請し、返事を待っている状態です」
SNS(交流サイト)にアップされた動画によると、立ち往生してから2時間ほどたったころ、運転士からこんな“悲痛”な言葉が乗客に向けてアナウンスされていた。

JR西によると、運行停止からの経過時間が1時間を超えると、乗客を車外へ降ろす検討を行うことになっている。過去の輸送障害での経験から導き出された目安だという。しかし今回、降車できたのは立ち往生してから3時間ほど経過した午後11時ごろ。中には日をまたいで未明までずれ込んだ列車もあった。既に帰宅する手段がなくなり、途方に暮れた人も多数いたようだ。
なぜ、1時間という目安を大きく超えることになったのか。冒頭のアナウンスに出てきた「指令」、すなわち大阪にある指令所に設置された対策本部(本部長は三津野隆宏・近畿統括本部長)では、乗客を降ろすかどうかの検討は行われたという。しかし結論は「NO」。列車の事故や設備の故障なら1時間で降ろせたかもしれないが、今回は雪が降り積もっている上に夜間で周囲は暗い。「お客様を安全に誘導できるかどうか、歩いていただくと転倒などのリスクがあると判断した」と長谷川社長は説明する。
長時間、車内で待機することにもリスクはあり、実際に16人が体調不良を訴えて救急搬送されている。それでもJR西は、輸送障害の原因となっていた分岐器(ポイント)の除雪を進め、できるだけ早く運行再開をするほうに懸けた。しかし結果的には除雪したそばから雪が降り積もり、バーナーを使って温めてもポイントの凍結が解消できない事態が続出。結局、運行再開を諦めることになった。
判断の妥当性は今後検証されることになるが、論点は2つあるだろう。1つは「現場」と「指令」で意見が異なる場合、どちらを優先すべきだったかということ。もう1つは、異なるリスクをてんびんに掛けた時、無意識に楽観的な見通しを選んでしまったのではないかということだ。
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