「車両更新応援ファンド」──。聞き慣れないクラウドファンディングの募集が1月14日から始まった。長野県の第三セクター・しなの鉄道(長野県上田市)が新車の導入資金を個人や法人から集めるという。新型コロナウイルスによる乗客減で、地方の鉄道会社も苦境に立たされている。新しいファンドの狙いと成算は。

しなの鉄道が導入した新型車両

 しなの鉄道は、北陸新幹線の開業に伴い並行在来線としてJR東日本から経営分離された旧信越本線の受け皿となった第三セクターだ。1997年から軽井沢(長野県軽井沢町)~篠ノ井(長野市)間、2015年から長野(同)~妙高高原(新潟県妙高市)間の2路線を運営している。

 しなの鉄道は線路だけでなく車両もJRから引き継いだ。旧国鉄時代の1970年代後半に製造された車両を今も使い続けている。車両の置き換え計画は2000年代前半からたびたび浮上したが、保有する約50両を新車で更新すると100億円超の資金が必要なため、先送りしてきた。しなの鉄道は20年3月期通期の売上高が43億円で営業利益が9000万円。その規模の企業にとって車両更新の負担は重荷だったためだ。

 とはいえ、車両は製造から40年に達し、故障が増加。JRでも同型車両の引退が進み、部品の調達が難しくなってきた。しなの鉄道は19年に、8年かけて新型車両「SR1系」を導入することを決めた。

 車両更新を決めたころに出合ったのが、ミュージックセキュリティーズ(東京・千代田)だった。同社は、資金難に苦しむ地方の中小事業者などに対して個人が数万円から小口で投資できるファンドを組成してきた企業。しなの鉄道と沿線活性化について協定を締結した三菱地所が橋渡し役となった。当初は「駅舎の建て替えや、飲食店の誘致などのプロジェクトで沿線の活性化を実現したいと考えていた」とミュージックセキュリティーズの小松真実社長は振り返る。

 2社で実際に議論しているうちに、しなの鉄道の喫緊の課題である新型車両導入のための資金確保に協力する構想が浮かび上がってきた。新型車両に置き換えれば電力消費量が約40%減り、二酸化炭素(CO2)削減という社会貢献につながる。そのメリットを前面に出して「インパクト投資ファンド」として組成することにした。それが、1月14日に募集が始まった「しなの鉄道 車両更新応援ファンド」だ。

 募集金額は5000万円。車両1両分にも満たない額だが「第1弾ということで、まずは取り組みやすい目標金額にとどめた」(小松氏)という。内訳は、個人からは1口5万円(手数料として別途2000円)で3000万円、機関投資家など法人からは1口100万円で2000万円を見込む。

 個人と法人とでは、ファンドの金額だけでなく内容も異なる。個人向けは、1口5万円のうち出資金となるのは半分の2万5000円で、残りの2万5000円は、しなの鉄道が運行している観光列車「ろくもん」食事付きプランのペアチケットなどの購入に充てられる。小松氏は「沿線活性化のために、実際に乗りにきてもらうことが重要だと考えた」と話す。しなの鉄道にもともと関心がある鉄道ファンだけでなく、軽井沢に別荘を持つ人などもターゲットにしている。

 では、出資分の2万5000円はどのように運用するのか。新車両の導入に対する直接的なリターンは乗客数の増加であると考えられることから、定期券を除く「定期外収入」に連動する仕組みとした。具体的には、投資元本を超えるまでは定期外収入の0.15%、超えた後は0.027%を原資にして10年間分配する。

続きを読む 2/2 鉄道ファン以外への広がりを期待

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