角谷:それでは、3つ目の疑問です。

なぜ中国は強硬?

 中国はなぜ国家安全法にこうまでこだわっているのでしょうか。デモを抑え込みたいというのは分かりますが、貿易・金融センターという香港の地位を危機にさらしてまで、強硬に法制化を進める理由はどこにあるのでしょうか。

興梠氏:外からの影響力をそぎたいのです。とにかく民主主義というものを香港で実現させたくない。

 イギリスから返還された当時は、香港人が外国に逃げては困るし、外資も撤退しては困るので、一国二制度を認めるしかなかった。だから、香港基本法の内容でも妥協していたわけです。

 しかし本音では香港で完全な民主主義が根付くのは困る。香港で起きた民主化の波を放っておけば、他地域に波及するというトラウマを持っています。これは我々の想像を絶する危機感です。

 習近平(シー・ジンピン)主席は、特にソ連が崩壊した経緯を共産党内でしばしば口にします。絶対にソ連のようにはならないと戒めるためです。

香港はかつてのベルリンの壁

角谷:それは経済や国際社会の声よりも、何よりも優先される、ということなのでしょうか?

興梠氏:はい。中国本土では2015年に国家安全法が施行されました。同法では、国家安全というのは、政権が内外の脅威に侵されない状態だと規定しています。それは人民の福祉や経済よりも先に記されています。

 そして、国家分裂や政権の転覆にあたるような行為を、徹底して処罰するとしています。要するに、共産党政権を絶対に潰させない、アメリカが後ろで応援している民主主義は嫌だと。

 その意味では、香港はかつてのベルリンの壁のような位置づけになってきました。つまり東西のイデオロギーが衝突する象徴のような存在になっているのです。

山川:興梠さんのお話をお聞きしていると、習主席は、香港が地盤沈下しても構わない。そのくらいの不退転の決意で民主化阻止に動いているようにも見えます。

興梠氏:習主席はよくボトムラインという言葉を使います。絶対に譲れないラインを決めています。それは共産党政権の持続です。そのためには、ある程度、経済が犠牲になっても構わないと考えているふしがあります。

 もちろん、強く出ればアメリカは妥協するのではないかという読みもあっての賭けでしょう。ただ、アメリカが金融制裁など、強く出てきたら、それはそれで仕方ないと、腹をくくっているような気がします。

角谷:世界がコロナウイルスで大変なときに、米中の対立がさらに強まっているというのは……。

山川:本当に由々しき事態ですね。中国はむしろ混乱に乗じて、というところもあるのでしょうか。

興梠氏:確かに中国のいろいろな論評を見ていると、アメリカは今、力が衰えていると書いてありますね。

 ただ、同時に中国政府もコロナで厳しい立場に置かれています。初動段階でしっかりとやらず、隠ぺいしてしまったことは明らかですから。本当は習主席はかなり気にしているはずです。全人代の政府活動報告の最初に、習主席はしっかりやったと書いたくらいですから。

 経済も厳しいし、失業率も高くなっている。アメリカとの貿易もこれからどうなるか分からない。こうしたときに求心力をつけるためには、強く出るしかない。香港だけでなく、南シナ海でも尖閣諸島でも、強気の行動に出ているのはそのためです。周辺国と対立が深まるほど、軍の士気は上がり、自分の基盤も強まるはずだ、という思考になっているのかもしれません。

山川:一番気の毒なのは香港に住む人たちですね。米中の代理戦争の犠牲者となろうとしている。

角谷:これからの動きも見ていかなければいけませんね。興梠さん、どうもありがとうございました。

(注:この記事の一部は、BSテレ東「日経プラス10サタデー ニュースの疑問」の番組放送中のコメントなどを入れて、加筆修正しています)