中国の狙いは香港のマカオ化

興梠氏:そうですね。中国は香港をマカオのようにすることをイメージしていると思います。

 香港と同じ特別行政区であるマカオは、2009年に国家安全法を制定しました。その結果、マカオの住民はデモをしたくてもできませんし、政府批判の書き込みもできません。最高で25年という求刑を受けますから。

山川:法律によって厳しく罰せられるようになったわけですね。実際、それ以降、中国に反発するような動きは出ていないのですか。

興梠氏:マカオにも民主派はいますが、喉にナイフを突きつけられているような状態で、動きたくても動けない。同時に現金を給付するということをやっていて、経済的には民衆が中国に取り込まれています。

山川:そうすると、最初の疑問である「10年後の香港は?」という問いに対する興梠さんの回答は、「マカオのようになっていく」ということですか。

興梠氏:そうです。中国側から、マカオ化を意識しているような発言が時折見られますから。

 ただ、マカオで実現したことが香港にも通用するかどうかは分かりません。香港の人たちは受けてきた教育も、歴史的な背景も違いますから、当然、反発も大きい。

角谷:さて、その香港の人たちの心情はどんなものなのか。次の質問はこちらです。

香港の人たちはどう思ってる?

興梠氏:私は1997年7月に香港が中国に返還された当時、香港で仕事をしていました。当時と今とでは、隔世の感があります。

 元来、香港人といっても様々で、例えば国籍はイギリスやオーストラリア、日本、アメリカであるにもかかわらず、香港の身分証明書を持っているような人たちがいます。香港というのは多元的な社会です。

 ただ、昔に比べれば、「香港人」であるという意識が強まっています。中国の締め付けが強くなるほど、自由を維持したいという思いが強まっているように感じます。

 もちろん、資産を持って海外に逃避しようという考えの人もいますが、香港に住み続けたいという気持ちも強い。それが昨年の若者中心のデモにつながったのです。ただこれは若者に限った話ではありません。富裕層の中にも最近の中国の動きには危機感を抱く人が多い。

 昨年のデモでは「反送中」というスローガンが掲げられました。これは「中国への送還反対」という意味です。逃亡犯条例が通ってしまったら、いろんな口実をつけて、中国に連れていかれてしまう。若者も大人も危機感を抱くのは当然です。

 そして今回の法案は、中国への送還どころではありません。中国政府が前面に出てきて、デモや発言を取り締まるようになる。より深刻な事態になろうとしています。

 ただ、香港人の中には、中国への抵抗を諦めかけている人も多いと思います。昨年までは香港政府との闘いでしたが、今回は中央政府との闘いですからね。絶望感に近いものがある。アメリカに何とかしてほしいというのが本音でしょう。

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