角谷:では、最初の疑問はこちらです。

10年後の香港は?

 まず、ズバリと聞きます。興梠さんは10年後の香港は、どうなっていると予想しますか?

興梠氏:中国政府がどこまで強硬に進めるか次第ですね。表向きアメリカや香港に対して強気な発言を繰り返していますが、香港は中国と世界をつなぐ貿易・金融センターです。その活力を奪うことはしたくない。本音では、国家安全法による影響を最小限にとどめたいと考えているはずです。

 一方のアメリカにとっても、香港の経済的なメリットは大きい。香港には米国企業約1300社が拠点を構えています。活力を奪いたくない点では両国の思惑は一致しています。その中でどう折り合いをつけるか。

 もともと香港は中国共産党が上海を占領したときに資産を持って逃げてきた人たちが築き上げた土地です。香港人というのは、何かあると資金を持って他の土地に逃げるというDNAを持っている。あまり刺激し過ぎるとシンガポールや台湾などに移り住んでしまう。実際、そうした動きは出ているし、台湾やイギリスは、そうした人たちを受け入れる措置も講じ始めています。

 その中で、中国政府がどう動くのか。自分たちを守るために、金の卵を産む鶏を殺してしまうのか。自重するのか。これから国家安全法の詳細を詰める段階で、次第に中国の姿勢も分かってくるでしょう。

山川:ここで香港版の国家安全法をおさらいしておきましょう。

「国家安全法」とは

角谷:はい。香港での反体制活動を禁じる法で、香港に高度な自治を認めた「一国二制度」を揺るがすものとみられています。

山川:今後は、全人代常務委員会が法律の詳細を決めることになります。6月にも立法作業を終え、遅くとも8月には施行される見通しです。

 イギリスの植民地だった香港が1997年に返還される際、中国は少なくとも50年間は大陸とは異なる制度を維持する一国二制度を承諾し、外交と防衛以外の高度な自治を認めました。

 その香港の憲法にあたる香港基本法は、言論やデモの自由を認めています。ただ、香港政府が国家安全法を制定するとも定めています。江沢民政権時代の2002~03年には、香港政府が法制化を進めようとしたのですが、このときは重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染拡大もあって、住民の反発が強く、法案が撤回された経緯があります。中国政府は再び、香港住民の意向を無視して法制化を進めようとしているわけです。

「香港国家安全法」の主な規制対象
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角谷:具体的には、上に示した通り、「国家分裂」「テロ活動」「政権転覆」「外国の干渉」などを禁じる内容になるとみられています。

山川:施行されれば、香港の民主化運動は徹底的に封じ込められるでしょう。デモもそうですが、SNSを使った情報交換など、コミュニケーションも遮断されてしまう可能性があります。香港の住民の中には、フェイスブックやグーグルなどが、使えなくなるのではないかと心配している人もいます。

 興梠さん、この法案が施行されたら、相当、香港は息苦しい社会になりそうですね。

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