前田建設工業による前田道路へのTOB(株式公開買い付け)は、前田道路が徹底抗戦する敵対的な買収となった。前田道路を連結子会社化してグループ経営に組み入れ、インフラ運営事業などを強化する考えを示す前田建設工業。一方、前田道路はTOBに対して「前田建設の連結子会社となることは、あらゆる面で当社の企業価値を毀損し、持続的成長を妨げる」との反対意見を表明していた。前田道路は500億円超の特別配当を実施したり、道路舗装最大手のNIPPOと資本・業務提携を協議すると発表したりして前田建設工業を揺さぶり続けた。その混乱の中で5月に前田建設工業から転籍してきた今泉保彦社長に、両社がシナジーを発揮するための課題について聞いた。

今泉保彦(いまいずみ・やすひこ)氏。
1957年生まれ。81年成蹊大学法学部政治学科卒、前田建設工業に入社。建築現場に詳しく、2010年に執行役員建築事業本部企画推進部長、13年には常務執行役員建築事業本部営業担当を務める。17年取締役兼専務執行役員建築事業本部長を務めた後、20年5月に前田道路の顧問に就任。同年6月から現職(写真:都築雅人)

今泉社長が前田建設工業から前田道路に移られてから約半年が過ぎようとしています。前田道路の社風や企業文化についてどのようにお感じになったかを教えてください。

今泉保彦社長(以下、今泉社長):2020年5月に前田道路の顧問となって約半年、6月の株主総会後に社長に就任してからは5カ月が過ぎようとしています。

 私は前田建設工業では建設事業本部での経験が長いのですが、株式公開買い付け(TOB)の後に、こうしたかたちで前田道路の社長になるとは考えていませんでした。ですから、来たばかりのころは社員の気持ちが分かりませんでした。経営方針としては今期は今枝良三前社長を踏襲する考えですが、それ以前に社員に私自身を信頼してもらわなければなりません。色々と新しい取り組みを掲げても、信頼なくしては実を結ばないからです。

 そこで、まずは現場に出向いて社員とフェース・トゥ・フェースで直接会話する機会をつくりました。当社は全国に営業所が約120カ所、アスファルト合材工場は約100拠点あります。これらは北海道から九州まで11支店に取りまとめられています。まずは総会後から7月中に挨拶回りして、9月から11月にかけて再度11支店を訪問しました。コロナ禍の影響で気軽に移動できる状況ではありませんでしたが、強行軍で各支店に営業所長や工場長に集まってもらい、それぞれが抱える質問や要望について話をしてもらいました。

 一番の心配事は「投資をしっかりと継続してくれるかどうか」でした。道路工事は装置産業なので、工事部門と製造部門で年間100億円近い設備投資が必要となります。それを私が社長になっても続けてほしいとの声が多く聞かれました。これに関しては「今枝前社長の経営を引き継ぐので心配はない」と伝えています。色々な社員との対話を通じて個別の課題を協議できたことで収穫がありました。前田道路の現場力の強さが「両刃の剣」だということに気がついたのです。

確かに、前田道路はどぶ板もいとわない現場の営業力や対応力に特徴があります。それは強みなのではないでしょうか。

今泉社長:それは強みでもあり、弱みでもあるのです。確かに会社の成長は強い現場力が支えてきました。全国で工事を支えてくれる協力会社との信頼関係の構築も一朝一夕に築けません。しかし、それ故に何事も現場で解決する風土ができてしまった。そうすると、会社単位で考えるような大きな課題の解決を図ろうとする力が弱くなります。現場に任せるべき課題と会社が考えるべき課題はその大小が異なります。そうした点が現場を回って見えてきました。

 例えば、当社は道路工事専業としては売り上げ構成比がやや特殊です。通常は官需が多いのですが、当社は民需の比率が非常に高く、民間が7割、官公庁は3割なのです。年間7万から8万件もの工事をこなしており、小さな仕事を積み重ねる各支店の営業力のたまものですが、将来を考えれば行政が手掛ける大型案件も積極的にチャレンジしていきたい。そして、大型案件は一定水準以上の技術力を持つ企業しか応札できないのです。支店レベルで民需を開拓する重要性は認識していますが、全社横断的に技術レベルを向上するには、支店ではなく会社が主導して獲得する仕事も必要になります。

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