いまだ被害に苦しむ被災者たち
被災者の日常は失われたままだ。熱海の文化や景観が気に入って来日した中国籍の徐浩予氏は、6月下旬に伊豆山へ移住した。民宿を購入後わずか1週間で被災してしまった。被災時はまだ住民票を東京都から移していなかったため、熱海市の救済措置が受けられず困窮した。現在は地元市議らの計らいで市が用意した避難所のホテルに入っているという。
徐氏は現在、在日中国人の仲間たちに呼びかけて義援金募集に尽力している。「土石流で全て失ったが『伊豆の踊子』などが好きで熱海に移住した。この街の復興に力を尽くしたい」と話す。

被害者の会の副会長を務める太田滋氏も自宅が全壊し、1500平方メートルとの畑が土砂に埋まったままだ。太田氏は「逢初川に泥水が流れてきたのを見て家を飛び出し、後ろを振り返らずに逃げたので、幸い家族の命は無事だった」と語る。民事訴訟では土石流発生の原因について土地所有者らの責任を問うが、「個人的には盛り土を見過ごしていた行政の責任も重いと思う。住民の命を守る行政指導ができていたかを追及したい」と語る。
実際、被災者らは行政にも訴えかけている。8月31日には立憲民主党などが国会内で「合同ヒアリング」を開催し、被害者の会から被災状況の説明を受けた。原告代理人を務める加藤弁護士は「違法な盛り土をしても利益が得られるなら事業者はそれを放置してしまう。こうした盛り土は日本各地にあり、人命の観点から法律で取り締まれないかを検討すべきだ」と盛り土規制の必要性を訴えた。
行政も動き出している。8月10日には内閣官房を事務局とした「盛土による災害防止のための関係府省連絡会議」の初会合が開催された。今後は都道府県と連携して全国で3万カ所以上の盛り土が点検される見通しだ。カーボンニュートラルの流れに乗って急速に普及した太陽光発電は、山林などの斜面に設置する事例も多い。メガソーラーの設置場所における土砂災害も全国で散発しており、豪雨の多発に比例して損害賠償を求める訴訟も増える可能性がある。

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