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菅義偉新首相は、9月2日の自民党総裁選の出馬表明会見で「地方の銀行について、将来的には数が多すぎるのではないか」と発言。翌3日には「再編も一つの選択肢になる」と明言し、収益力に乏しい“限界地銀”にメスを入れる意志を示した。第一地銀が加盟する全国地方銀行協会(64行)の損益合計をみると、本業から得た利益となる「業務純益」は2010年度に1兆3818億円だったが、直近の19年度には9761億円まで減少している。地域金融機関の投資アドバイザーなどを務める和キャピタル(東京・千代田)の小栗直登社長は「地銀が自ら合併や廃業を進めてオーバーバンキングを解決するのは不可能に近い」と指摘する。地銀改革がはらむ課題を小栗社長に聞いた。

小栗直登(おぐり・なおと)氏。 和キャピタル社長。1981年4月、静岡銀行入行。支店勤務後は国内外の市場運用業務に従事した。2005年4月に資金証券部長、13年1月に理事を務める。16年2月に和キャピタルを設立して社長に就任

菅首相が地銀再編に踏み込む姿勢をみせています。地銀再生は地方経済活性化の第一歩となりますが、なぜこれまで放置されてきたのでしょうか。

小栗直登氏(以下、小栗氏):地銀改革は長年の懸案ですが実行に移すのが遅すぎた感があります。課題となっているのは銀行数の多さ、「オーバーバンキング」です。10年前ならまだ残っていた地銀再編のメリットも、現在ではほとんどありません。

 近年はインターネットバンキングの普及により経営資源の軽量化が進んでいます。そこで地銀が一緒になっても固定費用が重くなるだけです。そもそも、この10年で地銀の体力は大幅にそがれました。これほど市場環境が悪い状況で合併を促しても、他行を吸収する体力を残した地銀はほとんどありません。

 地銀再生の動きは過去から続いていますが、自発的に改革に取り組む地銀が少なかった。高度経済成長期のビジネスモデルから脱却できなかったからです。

 かつては国が金利水準を保っていたおかげで、地銀は国債買いによる「イールド・ハンティング(利回り追求)」で容易に利ざやを得ることができました。そのため地銀は大胆な経営改革に踏み出さず、新規事業を興す人材も育ててこなかったのです。変化に鈍感な地銀の尻をたたくべく、国は10年も前から改革を促してきました。その過程で「優等生」と呼ばれたスルガ銀行の不正融資問題が発覚するなど、改革は迷走しました。

 日本は少子高齢化が進んでいます。だいぶ前から地銀は、旧来の事業のみでは収益が厳しくなると分かっていた。それでも地方の盟主であるが故に、時代の変化を直視してきませんでした。「規制があるから」などと言い訳をして抜本的な改革に手をつけなかった。実行できた改革といえば、人件費を減らすなど縮小均衡の経営です。地銀の改革は国や他業種企業などによる外圧がなければ、進めるのは不可能に近いでしょう。

預金残高の増加が経営の重荷に

東北地方にある地方銀行の運用担当者から「自然災害や経済危機の度に支援金などが預金残高に積み上がる。預金が積み上がっても本業の収益が少なければ資本金が増えず、自己資本比率の低下はリスク許容度も下げるため、経営の選択肢が狭められる」と聞きました。地銀の経営はリスクを取りにくくなっているのでしょうか。