クリーク・アンド・リバー社が開発したVR空間上の3次元モデルハウスの様子
クリーク・アンド・リバー社が開発したVR空間上の3次元モデルハウスの様子

 「3密」回避が叫ばれるコロナ禍の経済活動で、顧客との“接触”機会を増やすため、VR(仮想現実)空間内でのアバター(分身)を活用したビジネスが広がりをみせ始めた。例えば、住宅展示場。屋内空間でのコミュニケーションが多くなるため、展示会場での営業が敬遠されている。

 知的財産のマネジメントなどを手掛けるクリーク・アンド・リバー社(C&R、東京・港)はオンラインのVR空間内に住宅展示場のプラットフォーム「VR建築展示場」を構築。7月下旬から企業向けの出店セミナーを開始した。

 C&Rは5月に「超建築VR」と名付けたVRモデルハウスを制作するサービスを建築事業者向けに開始している。VR空間内に建設した建物をアバターで仮想体験できる技術だ。C&R建築グループの田中尚美シニアプロデューサーは、「コロナ禍を契機にハウスメーカーから『営業活動ができるVR空間をつくれないか』という問い合わせが急増した」と言う。

左右を見る、座るなど実際の動きを仮想空間に投影されたアバター(分身)が再現するため、現実の感覚に近い体験を味わうことができる

 VR建築展示場は、実際の体の動きがVR空間で再現される「6DoF」(6 Degrees of Freedom、6軸の自由度)に対応したヘッドセットで体験できる。VR空間に投影された自身のアバターは、顔の向きや前後左右への移動に加え、しゃがむ、立ち上がるなど、上下の動作も再現できる。アバターの視線は装着者の背の高さと同じになるため、3次元モデルハウスの大きさを“体感的”に理解することが可能だ。

 実際にVR空間を体験してみた。ヘッドセットを着用すると目の前に戸建て住宅が現れた。隣にはロボットのような外見をした販売員のアバターが立っている。ヘッドセットを装着した状態では現実世界の外部が見えないので、VR空間での移動は手に持ったコントローラーで行う。建物内に入ると1階リビングの吹き抜け空間の高さが分かった。2階に上って1階リビングをのぞき込むと、その高さにすこし怖さを感じるほど没入感がある。

アバターの視線は装着者の背の高さと同じになるため、3次元モデルハウスの大きさを“体感的”に理解することができる
アバターの視線は装着者の背の高さと同じになるため、3次元モデルハウスの大きさを“体感的”に理解することができる

 CG(コンピューターグラフィックス)で再現された床材や壁紙を一瞬で変更できる点がVR営業の強みだ。好みの色や形状を確認することでミスマッチを防ぐことができる。また、ヘッドマウント型VR装置とインターネット環境があれば、どこからでも3次元モデルハウスにアクセスが可能だ。田中シニアプロデューサーは「二世帯住宅などは、遠隔地に暮らす両親とVR空間で相談しながら詳細を決められる」と説明する。

 VR空間の住宅展示場は、中小住宅メーカーにとって商機となり得る。モデルハウスを実際に設置する場合、数千万円の建築費用や出展料、運営スタッフの人件費などの負担が必要だ。そのため、規模の大きな住宅メーカーや工務店しか展示ができなかった。しかし、VR空間ならば用地の心配はない。CG作成の費用がかかるものの、実物と比べれば大幅なコストダウンが可能だ。

 C&RはVR建築展示場に1000棟超の3次元モデルハウスを集積して、日本最大の住宅展示場を目指すという。当面はヘッドマウント型VR装置の普及率の低さが課題となるが、「しばらくは、利用希望者の最寄りにある住宅メーカーの営業所などで体験してもらうかたちになる」(田中シニアプロデューサー)と言う。VR活用は住宅の営業に限らないため、コロナ禍で空室となったオフィスを時間貸しのVRルームとして活用する方法も視野に入れている。

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