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2020年4月、6年ぶりに社長が交代した長谷工コーポレーション。新社長となった池上一夫氏は、就任と同時に「デジタルトランスフォーメーション(DX)推進室」を立ち上げた。池上社長は、09年からコンピューターの3次元空間上で建物を立体的に設計する「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」を導入するなど、業務のデジタル化を推し進めてきた。BIMは“情報”を有効活用した新しいビジネスの創出を可能にする一方、導入に際しては作業量が一時的に増加することから、長らく社内に強い反発があった。10年超の時間をかけてデジタル化を推進してきた池上社長に必要な心構えを聞いた。

長谷工コーポレーションはマンションの設計・施工、販売後の管理まで一貫するビジネスモデルに強みがあります。「建設業にもデジタル化の推進が必要だ」と考えたきっかけは何だったのでしょうか。

池上一夫社長(以下、池上社長):入社以来、設計部門で意匠設計に携わってきました。設計者は建物を立体的にイメージしながら平面図に描き起こしています。私は学生時代から「設計者の3次元イメージを共有できれば、施工など他の作業も効率が良くなる」と考えてきました。立体である建物は3次元で俯瞰(ふかん)した方が理解しやすいからです。しかし、建設現場では2次元の平面図がないと施工できない。ですから、設計と施工の間で3次元イメージを共有するのは現実では難しかったのです。

池上一夫(いけがみ・かずお)氏
長谷工コーポレーション代表取締役社長。1957年生まれ。80年早稲田大学理工学部建築学科卒業、長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)に入社。設計部門での経験が長く、社内業務のデジタル化を推進してきた。2020年4月に社長就任(写真:陶山勉)

 2009年4月に設計部門エンジニアリング事業部の事業部長に就任し、設計においていろいろなことを試せるようになりました。ちょうどその頃、あるセミナーでBIMの仕組みについての講演を聴いたのです。「米国ではBIMを活用して3次元で設計図を描き、それぞれの建設部材の情報を組み込んでいる」。この話に感銘を受けました。

 一般的なゼネコンが設計から施工まで一貫して手掛ける割合は約4割。当社はその比率がほぼ100%です。マンション専業のためBIMで使う建設部材の数も絞り込める。完成後の建物の管理などもグループ会社が手掛けているので、大規模修繕やリフォームにもBIMのデータが生かせます。私たちの強みを最大限に生かして建築の可能性を広げるには、BIMの力が必要だとひらめいたのです。

長谷工のBIM導入の経緯。一時は作業量が従来に比べて約5倍に増え、設計品質も低下したが、コツコツと改善を続けてきた

当初の計画では、どれくらいの期間で導入を実現する予定だったのでしょうか。

池上社長:セミナー後、すぐに有志を募って研究を進めました。BIMにはソフトが何種類かあるので、どの会社のものを採用するか検討しました。ソフト会社の説明を聞いた有志たちも私と同じようにメリットに感銘を受けてくれました。「池上さん、これ、やりましょう!」と盛り上がり、設計部門を中心に導入計画を練り始めたのです。

 まだ、多くの人がBIMのBの字も知らない時代です。社内の説明資料を作成し、取締役会にかけてゴーサインをもらいました。09年ごろに揚々とスタートを切ったのです。当初計画では3年後くらいにBIM設計が100%になる目標を立てていました。すぐに、それが甘い見通しだったと思い知らされました。BIM導入によるデジタル化にようやく自信が持てるようになったのは、ここ2年ほどのことです。