想定をはるかに超えた豪雨によって頻発する土砂災害。7月3日に静岡県熱海市の伊豆山付近で発生した大規模な土砂崩れは多くの人命と財産を奪った。この災害では起点付近で造成された「盛り土」が法令基準を大幅に超える高さであったと指摘されている。

 国土交通省は盛り土による造成地について宅地を対象に調査を進めてきた。熱海市の災害を受けて、赤羽一嘉国交相は「全国の盛り土の総点検をしなければならないとの問題意識は持っている」と語った。傾斜地を造成した宅地も多い日本。土木や不動産に詳しい秋野卓生弁護士に、造成地での土砂災害における責任について聞いた。

<span class="fontBold">秋野卓生(あきの・たくお)氏</span><br />弁護士<br />弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。2017年度 慶応義塾大学法科大学院教員(担当科目:法曹倫理)。18年度より慶応義塾大学法学部教員に就任(担当科目:法学演習《民法》)
秋野卓生(あきの・たくお)氏
弁護士
弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。2017年度 慶応義塾大学法科大学院教員(担当科目:法曹倫理)。18年度より慶応義塾大学法学部教員に就任(担当科目:法学演習《民法》)

豪雨は自然災害ですが、豪雨に伴う造成地での土石流の発生は人災とも考えられます。造成地での土砂災害については法的責任を誰が負うのでしょうか。

秋野卓生氏(以降、秋野氏):豪雨による土砂災害によって第三者が損害を被った場合の法的責任は、主に「現在の土地所有者」「造成地を整備した施工事業者」「造成の許可を下した行政」の3者にあります。行政の責任が問われるケースでは奈良県平群軍山津波災害訴訟判決(大阪地方裁判所1989年1月20日判決)があります。

 林道工事に伴う残土処理のため山腹に設置した盛り土が豪雨により崩壊して発生した災害でした。判決では工事の施行主体である平群町に国家賠償法2条の「営造物設置管理者責任」を肯定し、被災者への賠償を命じました。ただ、熱海市の土砂災害では、起点である盛り土部分が私有地であるため、国家賠償法2条の営造物設置管理者責任は請求できないでしょう。

 土地所有者の責任については、民法717条で「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵(かし)があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う(土地工作物責任)」と定めています。分かりやすい例を挙げると、台風でビルの看板が落下して直下にいた歩行者に当たった場合、所有者がメンテナンスを怠ってねじがさびていたと分かれば、その所有者は損害賠償の責任を負います。

静岡県熱海市の土石流災害現場で捜索活動をする消防隊員ら(写真:共同通信)
静岡県熱海市の土石流災害現場で捜索活動をする消防隊員ら(写真:共同通信)

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