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2020年度の新設住宅着工戸数は新型コロナウイルスの影響でリーマン・ショック時を下回る――。野村総合研究所は、2020年6月9日に発表した「2020~2040年度の新設住宅着工戸数」でコロナ禍の影響を分析した。85万戸とみていた20年度の新設住宅着工戸数を73万戸と大幅に下方修正。この数値は過去30年で最も少なかったリーマン・ショック後の78万戸を下回る。影響は21年度にも及び、新設住宅市場は2年で20万戸の需要が蒸発すると予測する。分析チームの榊原渉上席コンサルタントに、厳しい予測の背景を聞いた。

榊原 渉(さかきばら わたる)氏
野村総合研究所上席コンサルタント
1998年3月、早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了。同年4月に野村総合研究所入社。2017年4月グローバルインフラコンサルティング部長、20年4月コンサルティング人材開発室長に就任

20年度、21年度で新設住宅着工戸数が20万戸も減少するとの予想を発表しています。住宅業界に与える影響は相当な大きさになりますね。

榊原渉氏(以下、榊原氏):住宅市場にとっては厳しい2年間となるでしょう。20年度はコロナ禍の影響がない場合に比べ12万戸減少(85万戸が73万戸に)、21年度は同8万戸減少(82万戸が74万戸に)を予想しており、合わせて2年間で20万戸の新設住宅の需要が失われます。

 需要のへこみは一時的となり、22年度からは需要が回復するとみていますが、この苦しい2年間が住宅業界の構造を変えてしまうのではないでしょうか。例えば、住宅建築に携わる職人の問題。現場では職人の高齢化が問題となっています。需要急減で働く現場がなくなることで、この機に廃業しようという動きが加速するかもしれない。

 リーマン・ショック後に住宅の需要が回復したことで、団塊世代の職人が現場に戻り始めました。しかし、今回はこうした職人が相当に高齢化しています。22年からは団塊世代の職人が後期高齢者(75歳以上)になってくる。75歳を超えると要介護の比率が増えます。現場で働くには心身の安全を保つことが難しい。

職人の減少スピードが速いことが課題だった

 いわゆる「一人親方」も多いため、こうした職人が引退すれば、全国の工務店に影響が及ぶでしょう。中小規模の事業所でも跡取り問題があるので、団塊世代が辞めると言えば、事業継承は難しくなります。

 そもそも数年前から、新設住宅の需要の落ち込みよりも、職人の数の減少スピードが速いことが、住宅業界の課題でした。30年ごろまでに職人の生産性を1.5~2.0倍に改善しなければ、需要はあっても住宅を建てることが難しくなると言われています。その崖が近づくスピードがコロナ禍で早まった。

 現場を支えていた高齢の一人親方がリタイアすることで、供給サイドに少なくない影響が出始めるでしょう。10年後に振り返ったときに、「あの2年間が転換期になった」というインパクトがあります。