
ホテル所有と経営の分離を鉄道会社に説明
ファンドの視点で日本のホテル事業を分析した際、キャッシュフローがうまく回っていない状況が続いています。なぜ、この状況でホテル事業への投資妙味があるのでしょうか。
橘田氏:当社は全世界でホテルなどを含むホスピタリティー・ポートフォリオを強化しています。日本ではまだホテル需要が回復していませんが、今後はワクチンの普及とともに戻ってくると考えています。
ホテルの稼働率が9割など非常に好調な時期には改装が難しい。稼働率が低い今だからこそ、よりよい客室に改装するチャンスです。しかし、鉄道会社はこの環境下で積極的な投資ができません。当社は20年5月ごろからホテルを所有する多くの企業に「ホテルの所有と経営を分離するメリット」を説明してきました。その中で近鉄GHDには当社の提案を理解していただきました。
近鉄GHDとしてもホテル事業にもっと資金を投入して業務改善したいという思いが以前から強かったそうです。そこで当社と手を組んで新しいビジネスモデルを模索する道を選んでくれました。当然、発表までミーティングは秘密裏に進めました。私があまり関西にいると不自然なので、打ち合わせはズームなどのオンライン活用や、大阪と東京の半々で行いました。
日本型のホテル事業は宴会などを運営する固定費が高くなるため、欧米型のように宿泊特化のホテルに変化するのでしょうか。
橘田氏:利益率のみで考えれば確かに宿泊特化型のほうがよいのは確かです。しかし、それでは競合他社の参入障壁が低くなって差別化が難しくなります。ホテルは地域ごとに差別化ポイントを見いだして経営をすることで収益性を高めることが可能なのです。
例えば、近鉄GHDとの合弁事業に含まれている「都ホテル京都八条」は京都駅前という素晴らしい立地に加え、バスが何台も停車できます。客室数は約1000室、大宴会場も備えた大規模施設です。京都でこれだけの規模の宿泊施設は数少ない。この強みを生かして修学旅行などさまざまな団体客を狙ったホテル経営ができると考えています。
先ほど、「宿泊客が少ない今こそ投資の好機」とお話ししましたが、観光需要は必ず戻ります。21年中は難しい、22年もまだ早いかもしれない、それでも23年には確実に世界中で観光のリカバリーが起こるでしょう。家計にも貯蓄が相当たまっている。どこにも出かけられなかったフラストレーションが解消されるタイミングを狙い、当社は世界中のホスピタリティー関連の投資を検討しているのです。
鉄道会社などのホテル売却などの状況を見ると、保有する土地や建物を手放して資金に変える「オフバランス経営」を活用した業績改善を目指す企業が増えるのでしょうか。
橘田氏:それは日本の銀行がどのように企業と向き合うかに尽きるでしょう。銀行は不動産の担保価値を見て貸し付けをしてきました。大企業でも「一等地に本社があるから銀行が融資してくれる」と言う。この不動産担保主義が変わらない限り、オフバランスによる経営改革は難しいかもしれませんね。仮に不動産を売却しようにも、メインバンクから「土地がなければお金が貸せないので売らないでほしい」と言われてしまいますから。
しかし、最近では一部の大手金融機関も当社のように資金の出し手を精査した上で、ホテルなど事業リスクがある資産への融資を検討していただけるようになりました。リスクに対する考え方を変えられるかどうかが、オフバランス経営が浸透するカギになるでしょう。
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