建設現場の職人(技能労働者)には個人事業主である「一人親方」が多い。失業保険などが適用されない一人親方の生活を守るためにも、新型コロナウイルスの感染に警戒しながら現場は仕事を続けなければいけない。感染リスクを低減するため、IT活用で人との接触を控える現場づくりが進んでいる。

 「複数人が同時に働く住宅の建設現場では、新型コロナの感染リスクがあるだろう。しかし、職人とその家族の生活を守るためにも現場を止める判断はできない」。こう話すのは、名古屋市で戸建て住宅の設計・施工を手掛ける阿部建設の阿部一雄社長だ。

 阿部社長は緊急事態宣言が発令されてからも、建設現場の職人が働ける環境づくりに腐心してきた。「営業や事務作業の一部はリモートワークに対応できたが、建設現場だけは職人がいなければ仕事が進まない」と話す。

阿部建設が施工する愛知県の戸建て住宅。現場は感染防止に取り組みながら作業を続けている
阿部建設が施工する愛知県の戸建て住宅。現場は感染防止に取り組みながら作業を続けている
阿部建設が現場で働く職人に周知した「新型コロナウイルス感染症の予防に関する配慮事項」
阿部建設が現場で働く職人に周知した「新型コロナウイルス感染症の予防に関する配慮事項」
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 阿部建設は現場で上に示した文書を掲げている。現場に入る職人にはマスク着用と手洗いを厳守してもらい、家族も含めた健康状態を確認している。「リモートワークを実施する会社が増えたことで、集合住宅などの近隣にある現場では騒音への配慮も欠かせなくなっている。ウイルス対策だけでなく現場の様子も変化している」(同)という。

 「ウイルス感染は心配だが、現場は止められない」との悩みは、多くの建設事業者が抱えている。建設業界のマッチングサービスを手掛けるツクリンク(東京・港)が2020年4月22日から25日にかけて全国の建設会社に「新型コロナウイルス感染症の事業への影響」を聞いたアンケート(回答数1584件)では、「既に影響が出ている」との回答が6割近くに達している。

 「売上高の減少」を懸念する声が最も多く、「取引先の減少」や「取引先を開拓する機会の減少」といった業績の悩みが続く。今年度の売上高の見通しは、例年に比べ5~8割未満になるとの回答が約38%となり、2~5割未満まで落ち込むという深刻な回答も約21%あった。

 アンケートの回答者のうち4割強が「個人事業主」。一人親方と呼ばれる自営の職人が多く、コロナ禍で建設業界が抱える構造問題が浮かび上がる。建設業の労働問題に詳しい芝浦工業大学建築学部の蟹澤宏剛教授は「一人親方のほとんどは日給であるため、働く場がなければ収入が途絶える。個人事業主のため雇用保険の適用外となり、失業保険などのセーフティーネットで救われない」と指摘する。

 職人を自社で雇用する建設会社は固定費が高くなり、景気の波に経営が左右される。そこで専門技能を持つ一人親方に現場ごとに業務を発注する。蟹澤教授は全国に約330万人いる職人のうち約100万人が一人親方だと推計する。「高齢化が進んでいるため、現場が止まって収入が途絶えた機会に廃業を決める一人親方も多いだろう。代わりに外国から来日した職人がすぐに現場で働くとは考えにくく、コロナ禍が収束した後に建設現場を支える労働力が大幅に失われる可能性がある」と懸念する。

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