新型コロナウイルスの感染の有無を調べるPCR検査。その拡充は最前線の医療従事者を守り、医療現場の崩壊を防ぐためにも急務となっている。検査場とそのほかの医療現場とを物理的に切り離すことが求められるが、そこに1人用喫煙ブースの技術を活用したものが登場している。

 神奈川県は4月24日、横須賀市救急医療センターの駐車場で、PCR検査の検体採取をウオークスルー方式で行う「横須賀PCRセンター」の運用を開始した。県内のこれまでの検査では、1人の検体を採取するごとにマスクや防護服などを取り換える必要があった。医療資材が不足する中で、検査数を増やすことへのハードルにもなっていた。そこで県は医療従事者への感染対策や検査効率化を目的として、同センターに被検査者に直接触れずにPCR検査が行える、新たなウオークスルー方式の検査用ブースを2基設置した。

神奈川県が横須賀市救急医療センターに設置したウオークスルー方式のPCR検査用ブース(写真提供:横須賀市)
神奈川県が横須賀市救急医療センターに設置したウオークスルー方式のPCR検査用ブース(写真提供:横須賀市)

 この検査用ブースの前面には透明なポリカーボネート製の板を設置しており、写真のように、中に入った検査者が板に取り付けているゴム手袋に入れた手だけを外側に出して検査する仕組み。県に納品されたブースのプロトタイプを開発した1社が、パーティションなどオフィス機器を手掛けるアイピック(東京・千代田)だ。同社広報マーケティング部の小林美貴課長は、「居酒屋やパチンコ店など約500店に設置した実績のある1人用の喫煙ブースを基に、1週間でPCR検査用ブースに改良した」と説明する。

5月7日から関東圏を中心に販売開始

 アイピックは、首都圏を中心に複数のクリニックを展開する医療法人社団「健栄会」から依頼を受け、2月から院内感染を防ぐ施設の設計・施工に携わっていた。それが高い安全性が求められる医療現場向けブースの開発につながったという。

 例えば、消毒をしやすくするにはどうすればいいか。アルミ製フレームで組まれた今回のPCR検査用ブースの内部は、拭き取りやすいように壁の凹凸をできる限り減らした。また、ブース内部に送る空気の給気量と排気量を調整して室内の陰圧・陽圧を切り替える装置も、現場の要望に応じて別注で設置できる設計とした。喫煙ブースは一般的に屋内に設置するが、PCR検査ブースは屋外に置く場合が多い。そこで転倒しにくくするため底部の比重が重い構造とした。設置の手間を最小化するため、ブースは組み上がった状態で出荷し、現場でアンカー固定する仕様となっている。

 開発につなげるノウハウは集まっていた一方、部材の調達には苦労したという。特に、取り付けるゴム手袋には、医療従事者の安全を確保するために医薬品メーカーや研究機関が使う検査用部材が欠かせない。しかし、「新型コロナウイルスの感染拡大と相まって在庫が少なくなっていた。普段は取引のないメーカーなので、部材の確保には苦労した」(小林課長)という。

 アイピックではPCR検査用ブースの量産化を進めている。月産300セットの生産体制を整備し、取引先である文化シヤッターの流通網を活用して、5月7日から関東圏を中心に販売を開始した。吸排気の装置などを付けないブースのみで1基100万円(運搬費や取り付け工事費は別途)となる。すでに地方自治体から多数の問い合わせが入っているという。

 ウオークスルー方式のPCR検査は韓国などで実績がある。日本でも必要性が高まるものとみられる。

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