
東京都大田区に立地するはとバス本社の車両基地は、都内で見慣れた黄色い観光バスで埋め尽くされていた。平時ならば車両が出払い、野球ができるほど広い駐車場が満車になる様子は、同社の経営の厳しさを物語っている。
菅義偉首相が1月7日に1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)に対して発出を決めた新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言は、現在までに11の都府県にまで対象地域が拡大。感染拡大を防止するためやむを得ない措置ではあるが、2020年に続いて2度目の緊急事態宣言は経営悪化に苦しむ企業の体力をそぎ落としている。観光バス事業の運営がゼロになったはとバスの塩見清仁社長に経営の現状を聞いた。

昨年12月下旬からGoToトラベル事業が一時的に停止され、年が明けて再び緊急事態宣言が出されました。観光バス事業やホテル事業の経営はどのような状況なのでしょうか。
塩見清仁社長:緊急事態宣言の発令に伴って、1月9日から2月7日まで全コースを運休しています。コロナ禍が日本でも拡大した20年4月から外国人利用者はゼロが続きます。それでも、同年6、7月からは徐々に国内の利用者が戻ってきました。GoToトラベル事業の恩恵で潮目が変わったことから、秋ごろには月次利用者数が前年同月比で3割ほどまで回復していたのです。当社ははとバスなどの観光バス事業のほかに、築地で銀座キャピタルホテルの運営をしています。しかし、ホテルの売り上げは直近で前年同月比1割に満たない状況で、観光関連ビジネスは非常に厳しい経営が続いています。
景況や環境に左右されにくい事業として品川でオフィスビルを運営したり、東京都から都営バスの一部路線の管理受託をしたりしています。しかし、事業の軸足は観光にあるため、会社全体の収益を支えるには至っていません。資本も傷んできています。感染症の拡大に苦しむ今は金融機関も“傘”を奪うようなことはありませんが、コロナ禍が明けたときは分からない。聖域なく事業全体を見直す必要があるでしょう。人の移動、人々の接触が多くなる観光産業はウイルスに弱いため、この状況はいかんともしがたいのです。
キャッシュフローがどこまで回せるかはコロナ禍の収束次第になっています。観光事業は今夏の東京五輪・パラリンピックが開催されなければ、経営のV字回復は難しいでしょう。理想を言えばGoToトラベル事業が再開され、そのまま五輪につながる環境が望ましい。しかし、先行きは不透明です。極端な話をすれば、バスの運行規模やホテル経営も見直して、事業継続が可能な経営の規模を再考しなければならないかと思っています。昨年はできなかったお花見の時期までに経営環境が改善しなければ、最悪のシナリオも考えておかなければなりません。
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