東日本高速道路(NEXCO東日本)は、2020年10月に東京都調布市で発生した市道陥没と東京外郭環状道路(外環道)トンネル工事との因果関係を認めた。地表に影響はないとされる地下40mより深い「大深度地下」の工事だが、沿線住民への補償が費用に上乗せされれば、外環道の事業性に疑問符が付くことになる。国や東京都を相手取り訴訟を起こした外環道トンネル沿線住民の代理人を務める武内更一弁護士に、補償問題について聞いた。

虎ノ門合同法律事務所の武内更一弁護士。外環道の沿線である東京都杉並区、三鷹市、調布市、世田谷区などに生活する住民が2017年12月に国と東京都を相手取り、国土交通大臣が行った「大深度地下使用認可」と、東京都知事などが認めた「都市計画事業承認・認可」の取り消しを求める訴訟の代理人を務める(写真:都築雅人)

外環道トンネル工事のルート上にある東京都調布市の住宅街で発生した市道陥没について、原因はトンネル工事にあるとみていましたか。

武内氏:調布市で発生したトンネル工事ルート上の市道陥没が発生したメカニズムは、2020年6月に横浜市道環状2号線の相鉄・東急直通線「新横浜トンネル」のルート上で発生した陥没と同じだと考えています。ここでは、トンネル掘削においてシールドマシンが土砂を過剰に取り込んだことで、その上部に空隙(=すきま)が連続的に生じ、上層部の土層が崩落したことで地表が陥没しました。

 新横浜トンネルは地下19mを掘り進んむ工事ですが、外環道と同様のシールドマシンによる地下掘削工事でした。そのため、地下40m以深の大深度地下でも同様のメカニズムで陥没が発生すると私たちは裁判で訴えています。こうした事故が事前に発生しているのを知っていて地表陥没を予見できたのに、外環道トンネル工事を止めなかったことに問題があります。

01年に施行された「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(大深度法)では「地表への影響がない」とされています。調布市の陥没でトンネル工事との因果関係が認められた場合、補償はどうなるのでしょうか。

武内氏:大深度法は損失が発生した場合の補償を想定していません。トンネル工事の結果、地表面に影響が出た場合の損失については大深度法に記載されていないのです。

 損害が発生した場合は、民法709条の「不法行為による損害賠償」を適用するしかないでしょう。「故意又は過失によって他人の権利や利益を侵害した者が損害を賠償する責任を負う」ということです。しかし、この崩落が「過失」によるものであることを国やNEXCO東日本は認めず、あくまで「想定外」であると主張するでしょう。

 崩落が予見できる状態で発生したならば「過失」があり、その場合は「補償」ではなく「賠償」となります。外環道トンネル工事が賠償責任があるようなプロジェクトならば、これ以上の遂行を中止するかどうかも問われることになります。

 「公共の利益となる事業」の推進を目標とする大深度法の目的は2つ。「地表の不動産占有者の許可なく地下を使用すること」、そして「具体的な損失が生じない限りは補償せず地下を使用すること」です。

 つまり、地権者の承諾を取ってプロジェクトを進めるとお金も時間もかかる事業を、それらを省いて推進するための法律で、当初から「外環道」と「リニア中央新幹線」のプロジェクトに焦点を当てたものであることが透けて見えます。ですから、「調布市の陥没は想定外であり、国やNEXCO東日本に過失はない」と主張する展開が予想されます。

そもそも大深度法の検討時には今回のような地表が陥没するリスクは想定されていなかったのでしょうか。

武内氏:国が大深度法を検討する下地となった1998年5月の「臨時大深度地下利用調査会答申」では、地盤面が変異するリスクを指摘しています。「大深度地下は堅い地盤であるため良好な施工管理を行えば、地上への影響は少ないと考えられる」とする一方で、「施行時に過剰な土砂を掘削すると地盤の緩みなどが生じて地上への影響が及ぶ可能性がある」と述べているのです。

 大深度法は00年5月に国会で可決し、翌01年4月に施行されました。その際、地表への影響がないことを前提として、土地の権利者や居住者の承諾を取ることなく、補償もせずに大深度地下に使用権を設定できるとされました。「影響がある」と認めたら地権者に対して「補償をしなくてよい」「承諾を取らなくてよい」とはならないからです。

 しかし、それでは憲法29条の財産権を侵害する可能性が出てきます。私たちは大深度法そのものが憲法に違反する可能性があるため、大深度の使用認可は無効であると訴えを起こしているのです。

続きを読む 2/2 外環道工事は「仕切り直す必要も」

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