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 イノベーション創出へ、世界の先進企業の間では「革新の種は社内にまき、育てる」戦略が目立ち始めている。日経ビジネスの4月6日号特集「種は社内にある イノベーションの新作法」では、知的財産などの社内の種を新規事業などに有効活用する動きを取り上げた。

 日本企業の中で早くから知財戦略に力を入れてきた1社がキヤノンだ。コア技術を他社の侵害から「守る」だけでなく、ライセンス交渉などの「攻め」にも有効活用してきた。キヤノンの研究開発部門では「論文を読むなら特許を読め。リポートよりも特許を書け」という文章が受け継がれているほどだ。実際にキヤノンは特許をどう経営に生かしているのか。知的財産法務本部長を務める長澤健一・常務執行役員に聞いた。

キヤノンで知的財産法務本部長を務める長澤健一・常務執行役員(写真:竹井俊晴、以下同じ)

日本企業の中でキヤノンは、知的財産戦略に優れている印象を受けます。経営の中で特許などの知的財産はどう位置付けているのでしょうか。

長澤健一・常務執行役員(以下、長澤氏):キヤノンはモノ作りの会社で、歴史的に特許などの知的財産を重要視してきました。戦略そのものは時代とともに変化してきましたが、その姿勢に変わりはありません。

具体的にどのように変わってきたのでしょうか。

長澤氏:戦後のモノ作りは、欧米企業の技術を導入せざるを得ませんでした。米国のベル研究所やRCAなどは優れた特許を保有していましたので、多額の特許料を支払っていたわけです。何とか対策を練ろうと、現在のJEITA(電子情報技術産業協会)の前身組織に各社が集まり特許分析をしていましたね。状況を打開すべく、先人たちが知財戦略を強化してきました。1990年代にはキヤノンも競争力の高い特許を保有できるようになり、特許料を支払うことはほとんどなくなりました。

 特許の保有件数が増えてからはライバル企業との間で「クロスライセンス(特許の相互利用)」契約を結ぶようになってきました。ただ関連特許のすべてを利用させるのではありません。契約の対象外となる「除外特許」を決めて、自社の競争優位性につなげたわけです。カメラの場合、レンズ設計は除外特許にしていました。

 さらに90年以降のデジタルの時代では、画像や動画圧縮技術の普及に向けた規格作りが進み、(特許を一括して管理する)「パテントプール」の概念が重要になりました。