(写真:ロイター/アフロ)
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今回の選挙では人種差別問題もあり、黒人票の行方が重要にもなりました。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大前には、黒人の失業率は低下し、トランプの経済政策に引かれる層も拡大していたようでしたが。

青木氏:実は19年8月には米国の黒人失業率は5.4%に低下していました。08年秋のリーマン・ショック後、10年3月には約17%に上がり、その後も長く高止まりしましたから、相当に良くなっていたのは事実です。新型コロナ前は、その意味では黒人の中にも支持が増えた可能性はあるかもしれません。

 しかし、新型コロナで今年5月の黒人の失業率は16.8%に急上昇しました。経済を再開したことで10月は10.8%まで下がりましたが、まだ相当高い。一方で白人のそれは4月に14.2%となりましたが、10月は6%に下がっています。

 黒人の失業率が白人より高いのは常態的ではありますが、黒人やヒスパニックの被雇用者が多いサービス産業(教養・娯楽)の雇用者数は4月に2月比で約832万人も減少しました。サービス産業の雇用は大きく失われており、経済を再開しても簡単には戻りません。不満が鬱積しやすいのはそこにも要因があると思います。

ばらまきで消費が回復したという指摘がありましたが、地域的に見るとどうですか。

青木氏:ラストベルトの1つ、ミシガン州は今回の選挙でバイデン氏が制しました。ミシガン大学の推計によると同州の消費者信頼感指数は今年4月には71.8と2月の101から急落しました。消費者信頼感指数とは、消費者の購買意欲を示したものです。これはばらまきを続けたにも関わらず、10月でもまだ81.8。落ち込みの3分の1程度しか戻していません。全国の回復度より少し低い状況です。マネーは給付されたけれども、この先の不安などから消費者態度はこうした地域ではまだ元に戻り切れていないのかもしれません。

バイデン新大統領は「ねじれ」の中、財政出動継続できるか

トランプ大統領は、法廷闘争に出るようです。さらにもめる可能性もありますが、重要な問題は上院では共和党が多数を維持し、バイデン氏にとっては「ねじれ」になることです。景気回復の持続性とバイデン氏の主要政策である増税などへの影響をどう見ますか。

青木氏:まず景気の問題からお話しします。回復を持続するには、さらに財政出動が必要になるでしょう。米政府は今年上期だけで既に2.8兆ドル(約288兆円)を支出しています。そこまではいかなくても、1兆ドル超は必要なはずです。消費頼みの景気回復ですから、それがなければ腰折れの可能性は高まるでしょう。

 一方、政府の債務残高に対する法定債務の現在の上限は21年7月末に期限が来ます。これを上げて政府債務を増やすには議会の承認が必要になりますから、バイデン氏にとってはかなり難しい状況になるでしょう。さらにいえば、同氏が掲げている法人税や富裕層の所得税などの引き上げも、ねじれの下では容易に進まない可能性もあります。増税ができなければ、ここでも財源は増やせません。

 ただ、トランプ大統領が離脱したTPP(環太平洋経済連携協定)や、国際的な気候変動枠組み条約であるパリ協定への復帰は実施されるでしょう。TPPは、日本を含む環太平洋地域の貿易拡大で日本を含めて経済拡大にはなるでしょう。パリ協定も、米国内でのEV(電気自動車)や再生可能エネルギーなど環境関連産業の成長にもつながると思いますが、いずれも経済に影響をもたらすまでになるには時間が必要です。

TPPの話もありましたが、バイデン大統領の日本経済への影響をどう見ますか。対中貿易摩擦はどうなるでしょう。

青木氏:本来は民主党の方が国内優先的で、かつて1993年からのビル・クリントン元大統領の1期目に「日本たたき」ともいえそうな厳しい貿易摩擦が起きたこともあります。今、そのような対応をしてくるとは思えませんが、国内景気の動向次第で風向きは変わるかもしれません。

 対中政策は、少なくともこれ以上の関税引き上げはなく、むしろトランプ大統領が引き上げたものは下げるかもしれません。ただ、中国への警戒感は米国全体のものです。技術摩擦を含め、そう簡単に緩むことはないと見ています。

この記事はシリーズ「田村賢司の経済万華鏡」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。