世界が注目した米大統領選挙は、民主党のジョー・バイデン前副大統領が当選を確実にした。ドナルド・トランプ大統領の「敗因」は、新型コロナウイルスの感染拡大への対応、人種差別問題などいくつも挙げられるが、得意のはずの経済も実際は課題が山積していた。コロナ禍からのV字回復を誇示したトランプ大統領の死角はどこにあったのか。UBS証券日本地域CIO(最高投資責任者)兼日本経済担当チーフエコノミストの青木大樹氏に聞いた。

青木大樹(あおき・だいじゅ)氏
2001~10年、内閣府で政策企画・経済調査を担当。第1次安倍晋三政権では、骨太の方針策定に関わった。05年、米ブラウン大学大学院で経済学博士課程単位取得。10年8月、UBS証券入社。16年11月から現職

米大統領選挙で、民主党のバイデン前副大統領が当選を確実にした要因は今、様々な角度から分析されています。経済の面から見た要因をどう感じていますか。

青木大樹・UBS証券日本地域CIO(最高投資責任者)兼日本経済担当チーフエコノミスト(以下、青木氏):私は、トランプ大統領はむしろ健闘したと思っています。まず、トランプ大統領にとってのプラスの要因から挙げてみましょう。新型コロナウイルスの感染拡大で経済が停滞し、失業も急増しましたが、政府は今年3月から州が支給する失業給付に連邦政府が週600ドル(約6万1800円)の特例加算を始めました。中には、働いていた時よりも収入が多くなった人もいたくらいです。

 これは7月末にいったん終了しましたが、週400ドル(4万1200円)に減りながらも大統領令で加算は継続しました。徹底したばらまきを繰り返したわけです。

 これは効果を上げたと思います。米国の実質GDP(国内総生産)は、前期比年率で2020年4~6月期に31.4%減と統計開始以来最悪の落ち込みとなりましたが、7~9月期は33.1%増とV字回復しました。その8割近くはこうしたばらまきによる消費押し上げ効果によるものだと見ています。

景気に持続力はあるのか
米実質GDPの前期比年率の推移
単位:%
出所:UBS証券
注:2020年10~12月期以降はUBS証券の予想

 さらにコロナ禍で住宅着工戸数が今4月には1月から42%も急減しましたが、6月頃から回復し始めて9月には1月に近い水準まで戻りました。新型コロナの感染拡大で住宅価格が今年に入ってあまり上がらなくなりましたが、一方で金融緩和もあって株価が上昇。それで利益を上げた人達が値ごろだと思って買いに走った可能性もあります。

ラストベルトてこ入れを図った「失敗」

大統領選の“争点”は「コロナ対策」「経済と雇用」「人種差別問題」「温暖化問題」などだったと思います。このうち、トランプ大統領が明確にアピールしやすいのは経済ですから、そこでの効果にはなったかもしれません。しかし、ばらまきはカンフル剤にすぎないという面もあります。

青木氏:そうですね。彼の岩盤支持層が多いとされた中西部から大西洋岸中部地域に至るラストベルト(さびた工業地帯)と呼ばれる工業地域が抱えているのは、それとは異なる問題です。

 言うまでもなく、この地域は自動車など従来型製造業が中核です。4年前の選挙では、こうした地域で失われた雇用を取り戻し、「米国を再び偉大にする」と掲げて初当選しましたが、製造業が抱えている問題は、強硬な対中国制裁でどうにかできるようなものではなかったということです。

 世界の新車販売台数は16年に約9400万台でしたが、その後はほぼ横ばいで19年には9130万台にむしろ落ちています。世界景気が好調だった時期に、それでも伸びていなかったわけで、ラストベルトの問題は「中国に職を奪われた」かどうかだけでなく、産業構造の転換の遅れにも課題があったといえるはずです。

続きを読む 2/2 バイデン新大統領は「ねじれ」の中、財政出動継続できるか

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