新事業を生み、育てていけるかどうかは、中長期的な成長を大きく左右する。その有力な手段としてデジタルトランスフォーメーション(DX)を活用し、独自のプラットフォーム事業を生み出した日本瓦斯(ニチガス)。和田眞治前社長時代から、営業力強化とデジタル化に積極的に取り組み、独特の強みを生み出してきた柏谷邦彦社長に新事業の創出法を聞いた。
■本シリーズ連載ラインアップ
・さらば「現金貯め込み」経営 昭和電工はなぜ日立化成を買ったのか
・祖業も売却するオリンパス ガバナンス改革が支える本業集中特化
・AGC、「両利き経営」の真骨頂 成熟事業も深掘りで勝ち尽くす
・ニチガス、DXが生んだ「蛍」 保安・配送の常識を変える
・「小が大を飲む」巨額買収の勝算は 昭和電工・高橋社長に聞く
・カメラも祖業も切り離し オリンパス竹内社長が語る「選択と集中」
・両利きの経営は「抜けのないマネジメントで」 AGC宮地副社長
・ニチガス・柏谷社長に聞く エネルギー自由化を勝ち抜くDX戦略(今回)

今、ガス業界で他社も使えるプラットフォーム事業を本格化しています。御社は、もともと関東を地盤にしたLPガス、都市ガス事業者でした。それがガス・電力の自由化と、デジタル化を機に事業構造を大きく変えてきました。特に近年の変化は業界他社にはほとんどないものです。何をしてきたのでしょうか。
柏谷邦彦社長(以下・柏谷氏):2つの転換点があると思います。1つ目は、1997年4月のLPガス小売りの自由化です。LPガスの小売りはかつては許可制だったのですが、これが登録制になり、事実上誰でもどこでもLPガス販売ができるようになったのです。LPガス業界の大半はすぐには動きませんでしたが、(登録すれば地域内で誰でも販売でき)価格が自由化されたことで、消費者目線での競争が生まれてきました。その中で当社は販売を拡大しようと様々な努力をしてきたのです。
当社にとっての2つ目の転換点は、2011年に米大手銀行のJPモルガン・チェース(の投資部門傘下のファンド)から出資を受け入れたことでした。日本企業を調べていたのでしょう。(ニチガスは)凄く面白い会社で、自由化で伸びていく可能性が高いというのでぜひという話でした。
デジタルで独自の競争力
自由化の中で、かつて他社が地盤としていた地域に営業攻勢をかけたり、M&A(合併・買収)でガス販売の商権を買ったりして拡大していたと聞きますが、世界で目立つ会社ではなかったと思います。何に注目されたのでしょう。
柏谷氏:当時の時価総額は500億円程度だったと思います(22年8月19日時点では同約2619億円)。ですが、自由化の中で稼ぐ力があるというのに加えて、テクノロジーを駆使して事業を変えようとしていることが注目されたようです。
当社は和田眞治前社長(現・会長)が、日本でもガス、電力とエネルギー自由化が進んでいく中で、勝っていくには価格とサービス、安全性がなにより大事な競争力だと言ってきました。そしてそれを支える手段としてデジタル化を徹底して進めようとやってきたのです。
(JPモルガンの話のあった)11年当時は、例えば各家庭のガスメーターの検針は、一般的には作業員が行って計測し、事務所で処理するのが普通でした。当社はこれを携帯電話を使って、その場でデータ入力できるようにしたのです。直行直帰も可能になるので効率は大幅に上がりました。検針やガス漏れチェックなどの保安作業もGPS(全地球測位システム)で、どこに行ってやったかまで全て分かるようにもなりましたね。
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