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お盆の帰省も静かなものに終わり、論争を呼んだ「Go Toトラベル」も空振りになりつつある。新型コロナウイルスの感染拡大抑止は何より重要だが、経済との両立も無視できない。とりわけ苦しむ観光業などをどう救い、「ウィズ コロナ」時代をどう生きればいいのか。「旅行需要を前借り」する独自策を提唱する武田洋子・三菱総合研究所チーフエコノミストにその考え方を聞いた。

武田洋子(たけだ・ようこ)氏
三菱総合研究所チーフエコノミスト、政策・経済研究センター長。2008年米ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。1994年日本銀行へ入行。2009年に三菱総合研究所へ入所。政策・経済研究センター主任研究員(シニアエコノミスト)、政策・経済研究センター副センター長を経て、17年10月から現職。

お盆が終わりました。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないせいもあって、帰省ラッシュは起きませんでした。旅行需要を喚起しようと7月22日に始まった国の「Go Toトラベル」も効果は限定的です。旅行業界やサービス産業など直接的打撃を受けている業種中心にせよ、経済と感染防止を両立させる策はあるのでしょうか。

武田洋子・三菱総合研究所チーフエコノミスト、政策・経済研究センター長(以下、武田氏):旅行や飲食などの直接的な需要喚起自体は、必要な施策だと考えます。観光をはじめとしたサービス産業が、新型コロナで特に大きな打撃を受けているのは間違いありません。経済の悪化でも人は苦しむのですから。ただ、感染防止との両立は言うまでもなく重要です。

 では、どうすればいいのか。感染が広がっている最中に旅行需要を喚起するのではなく、将来の収束後の需要を捉えてはどうでしょうか。例えば消費者に1年後以降に旅行をできる権利を先に割引で販売するという手段です。その割引分は、政府などが補填する形にします。

 事業者にとっては「未来の売り上げを前借り」することになります。そして、消費者は感染がある程度収まった時にそれを使うのです。国民の間には、困っている観光地などを助けたい気持ちがあると思います。その気持ちにも働きかけて、まず苦しい企業を助ける。そして、感染が下火になってから消費するのです。

需要の“先食い”は一部にすぎない

具体的にもう少し説明してもらえますか。

武田氏:まずホテルや旅館、地域の商店街、飲食店などが宿泊や買い物・食事の権利を集めて販売するウェブサイトを、政府が認定する。大手旅行会社やネットの旅行会社などが設けているようなものです。

 中小企業を含めたホテルや旅館、あるいは飲食店など事業者はそこに宿泊券、飲食券などを割引価格で出品し、消費者がそれを割り引きの恩恵を利用して買えるようにするのです。その割引分は、政府が事業者に補填する形などがいいのではないでしょうか。割引分は、例えば20%程度が考えられます。

 もちろん、中小の事業者が単体でチケットを販売するのではなく、観光地全体で様々なプランを組み合わせたチケットを販売してもいいですし、事業者や商店街などが共同でチケットを売る手もあるでしょう。

単に需要の先食いになりませんか。実際に感染が収束した時には、需要がなくなってしまうようなことにはならないでしょうか。

武田氏:肝心なのは「ウィズ コロナ」の時代に生きる方法を考えることではないでしょうか。確かに何割かの需要の先食いにはなりますが、重要な課題は、売り上げが蒸発している今を事業者がどう生き抜いていくかです。

 この施策では、事業者は借金を増やさずに流動性を確保し、地域の雇用も維持できる可能性が高まります。消費者にとっても、事業者が次々に破綻したら、将来旅行を楽しみたくてもできなくなってしまいます。先ほどお話しした「支援」には、その意味も含んでいます。

 恐らく何割かの需要は先食いすることになるでしょう。でも、それで企業が生き延びて、将来、新型コロナの感染が世界で収束してくればまたインバウンドも呼び戻せます。その時に需要を大きく拡大すればいいのです。

 巣ごもり消費などで業績を伸ばした業種も世の中にはあります。そうした企業の協賛も募り、新たなサービスを付加したりする手もあるかもしれません。