激化し続ける米中対立。中国は、新型コロナウイルスの感染拡大をいち早く抑え込んだが、経済はまだ回復しきれない。香港問題は経済の低迷に拍車をかけかねないが、それでも中国は統治強化に突き進む。中国の政治・経済が専門の柯隆・東京財団政策研究所主席研究員は「香港の金融センター機能を失ってでも中国は態度を変えない」という。米中対立と中国経済の今後を聞いた。

柯隆(か・りゅう)氏
東京財団政策研究所主席研究員。1963年、中国・江蘇省南京市生まれ。88年来日、愛知大学法経学部入学。92年、同大卒業。94年、名古屋大学大学院修士課程修了(経済学修士号取得)。長銀総合研究所研究員、富士通総研経済研究所主席研究員を経て2018年から現職。

香港国家安全維持法が施行され、中国の一国二制度は、極めて厳しい状況になっています。香港立法会(議会)選挙が9月6日実施の予定です。米中対立は、ここからどうなると見ていますか。

柯隆・東京財団政策研究所主席研究員(以下、柯氏):国家安全維持法施行後に、米国は中国本土と香港在住の米国人に「(法施行で)米国人は、人質になる可能性がある」と警告を発しています。何が起きるか分からないと見ているということです。

 恐らく中国は立法会選挙まで、(民主派を)厳しく取り締まるでしょう。そこが大きな節目で、親中派が議席の5割以上を取れば、そこでいったん緩めるのではないでしょうか。

 香港の民主派の一部は海外に出てしまう可能性があるし、法的にはどうとでもできるからです。ただ、過半数を取れない場合は別です。それは北京(中国政府)にとって最悪の出来事です。香港を世界の金融センターとして維持したいところですが、それさえ諦めて香港の統治強化に向かうと思います。

 そのときは、日本企業にとっても、欧米企業にとってもチャイナリスクが噴出するでしょう。中国との関係をどうしていくのか、厳しい判断を迫られかねないからです。

一時はファーウェイもかばわず

米中対立は2020年5月に、米国が中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する半導体の輸出を米国外からでも厳しく規制する措置に出て、激しさを増しています。選挙結果がどうであれ、香港の統治を厳しくすれば、米中対立はさらに激しくなるほかないように見えます。

柯氏:少し前に戻ります。ファーウェイを巡っては、2018年12月に創業者の任正非氏の娘で同社副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟氏が、イランとの違法な金融取引について銀行などに虚偽の説明をしたとして詐欺などの罪でカナダ当局に拘束されています。さらに19年1月には、同社のポーランド現地法人の中国人幹部らがスパイ容疑で同国の当局に逮捕されました。

 ポーランドの事件の際には、ファーウェイは「疑いが持たれている行動は当社と関係はない」として幹部らを解雇処分にしましたが、この後中国政府は、これ以上ファーウェイをかばえないというような態度でした。同社自身が招いた事態だというようなものです。

 これだけではなく、以前は次世代情報技術や新エネルギー車など重点分野と品目で製造業の高度化を目指し、建国100年となる2049年に「世界の製造強国の先頭グループ入り」を目指すとした「中国製造2025」という長期戦略を声高に言っていましたが、19年ごろからはあまり言わなくなっていました。米国への刺激を避けていたのです。

では、米中対立が今年に入って激化した要因はどこにあるのでしょう。

柯氏:米中の争点は、ファーウェイだけではなく、今年になってさまざまなものが膨張しました。その1つが新型コロナの感染問題です。世界で死者数が膨大な数になり、米国ほど中国に厳しくなかった欧州が考え方を変え始めました。感染源を中国だとして厳しい態度に転じ始めたのです。

 例えば英国は、今年1月には、高速・大容量通信の5G(第5世代移動通信システム)で、ファーウェイ製品の使用を部分的に認めていましたが、米商務省が5月に同社に対する事実上の禁輸措置を強化すると、排除に傾きました。

 さらに香港問題が激化し、台湾では1月、対中強硬路線をとる与党・民主進歩党(民進党)の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が圧勝して再選されました。南シナ海の領有権問題などもあります。

 これらの問題はいずれも解決が難しいが、中国政府にとっては核心的利益であり、譲れないものなのです。

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