韓国の大統領選挙まであと1カ月を切った。保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長が、進歩(革新)系与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事をややリードしているが、なお予断を許さない。両候補関係者のスキャンダルが続いたことでも注目を集めたが、冷え切った日韓関係はどうなるのか。尹氏は対日関係改善に前向きに見え、李氏は日本に厳しい発言も続いたが、そう単純なものではない。韓国政治が専門の木村幹・神戸大学大学院教授に選挙の情勢や韓国社会の変化、日韓関係への影響などを聞いた。

韓国の大統領選挙が3月9日に迫っています。同国の世論調査機関、リアルメーターが2月7日に公表した各候補の支持率では、保守系候補の尹・前検察総長が43.4%で、進歩(革新)系候補の李・前京畿道知事の38.1%に対して5.3ポイントリードしています。今の情勢をどう見ていますか。

木村幹・神戸大学大学院教授(以下、木村氏):いろんな世論調査によって差があるというのが現状です。韓国の世論調査は、サンプル(調査対象)によっても誤差があります。5~6%の差だとまだ誤差の範囲だと言えるでしょう。8%位の差になると、それを超えてくるので、尹氏がさらに引き離すかどうかというところだと思います。

2月に実施された候補者による初の討論会。左から沈氏、李氏、尹氏、安氏(写真:AP/アフロ)
2月に実施された候補者による初の討論会。左から沈氏、李氏、尹氏、安氏(写真:AP/アフロ)

 李氏の支持率は、昨年末の一時期を除くとほとんど35~40%です。野党ながら同じ進歩系の「正義党」候補、沈相ジョン(シム・サンジョン、ジョンは女偏に丁)氏の支持率を足しても40%を少し超える程度です。その李氏の支持率が尹氏を逆転するのは、中道系野党、「国民の党」の候補で3番手の安哲秀(アン・チョルス)氏に尹氏の支持が流れた時だけになっています。

 韓国は、保守と進歩でイデオロギー的に分断されていて、その基盤が拡大しているかどうか、その基盤をまとめ切れているかどうかが重要になるのです。

<span class="fontBold">木村 幹(きむら・かん)</span><br />1966年生まれ。93年、京都大学博士課程中退。博士(法学)。97年、神戸大学大学院国際協力研究科助教授。2005年、同研究科教授。韓国政治の専門家として知られる。
木村 幹(きむら・かん)
1966年生まれ。93年、京都大学博士課程中退。博士(法学)。97年、神戸大学大学院国際協力研究科助教授。2005年、同研究科教授。韓国政治の専門家として知られる。

文大統領が不文律を超えて大統領選に関わってくるか

ここにきて安氏が国民の力に対して世論調査による候補の一本化を提案しました。世論調査をして、その結果で候補を一本化するということのようですが、こうなると尹氏ががぜん有利になるのでしょうか。

木村氏:支持率の数字だけを見ると、尹氏がますます有利になるように見えるでしょうが、世論調査を安氏が提案しているというところがミソなんです。李氏や沈氏らを交えた世論調査と違って、尹氏と安氏だけで調査をすると、安氏の支持率が30%を超えてきたりして意外にいい勝負になるんです。

 安氏と李氏の対決でも、安氏の支持はかなり高い。それがあってか、尹氏側は、候補一本化に世論調査を使うことには乗り気でないようです。ただ、安氏の支持層というのは、基本的に「勝ち馬に乗る」動きがあります。今年1月途中から安氏の支持率が低下してきたのもそれがあるでしょうが、尹氏ががぜん有利とはまだ言えないように思います。

この大統領選では、尹氏と李氏の両候補のスキャンダルが噴出し続けました。李氏は不正献金疑惑や京畿道知事時代に、妻が道職員に個人的な買い物を頼み、道のクレジットカードで払わせたといった疑いが報じられました。一方の尹氏も、自身の失言や妻の経歴詐称問題、陣営内の対立などがありました。さすがにスキャンダルは、もう打ち止めでしょうか。

木村氏:スキャンダル合戦自体はまだ続く可能性があると思いますね。例えば、李氏は「韓国のトランプ」ともいわれた独特のキャラクターで、それ自体が魅力という面もありますが、同じ党の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の方が支持率は5%程度も高い。現職最後の段階の大統領の方が、与党候補より支持率が高いというのは韓国では極めて珍しい事態です。逆に言えば、李氏がそれだけ進歩系支持層をまとめ切れていないということです。

 もし文大統領が何らかの形で、李氏を積極的に支援するようなことをすれば、支持率は尹氏とイーブンになるかもしれません。ただ、現職大統領は、大統領選に直接介入しないのが現在の韓国の不文律ですから、もしそんなことがあれば前代未聞です。

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