2022年9月、日産自動車出身の関潤氏の辞任を受けて日本電産社長に就任した小部博志氏。永守重信会長CEO(最高経営責任者)とは1973年の創業時から苦楽を共にした仲だ。関氏を含めて外部から招へいした後継者候補にうまく引き継げず、“リリーフ”として登板したが、1月に23年3月期の業績予想を大幅に下方修正するなど環境は厳しい。成長の柱と見込むEV(電気自動車)向け動力装置「イー(e)アクスル」の立て直しにどう挑むのかなどについて聞いた。

小部博志(こべ・ひろし)氏
小部博志(こべ・ひろし)氏
1949年生まれ。職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)で永守会長の後輩。73年の日本電産創業時からのメンバーでもある。主に営業を担当し、84年取締役就任。2000年副社長、05年COO(最高執行責任者)、15年副会長CSO(最高営業責任者)。22年9月から社長COOに。(写真=太田未来子、以下同じ)

前社長の関氏が、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業を中核企業とする鴻海科技集団のEV事業の最高戦略責任者(CSO)に就任するそうです。率直にどうお感じですか。

小部博志社長(以下、小部氏):他社の人事に特に言うことはないですね。活躍されることと思います。

日本電産は、モーターやそれを制御するインバーターなどで構成するEV用の動力装置「イーアクスル」を車載事業の成長のけん引役と位置づけています。鴻海科技とはEV用モーター生産などの合弁会社設立を検討と発表したこともありました。同社との関係は“濃密”ですが、関氏のCSO就任で今後の関係に影響が出ますか。

小部氏:鴻海科技と取引はありますが、詳細は話せません。合弁会社はまだ設立には至っていませんが、引き続き検討を進めています。(関氏のCSO就任の)影響はないと思いますね。当社としては、より機能の高いものを安くつくる。顧客の期待を上回るようなモノづくりをする。それだけです。

構造改革で24年3月期業績は急回復へ

23年3月期の通期連結業績予想を1月下旬に下方修正しました。従来は前期比22%増の1650億円で過去最高を更新するとしていた純利益は、一転して同56%減の600億円としました。原料価格高騰で採算が悪化した原材料在庫の引き当てや、欧州向けなどの車載関連製品の品質問題への対応などで構造改革費を計約700億円計上したためとのことです。加えて事業環境も悪化しているとしています。実態をもう少しお聞かせ下さい。

今期は最終減益となる見通し
今期は最終減益となる見通し
●日本電産の連結業績推移 出所:日本電産の決算資料を基に本誌作成
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重視する営業利益率も停滞する
重視する営業利益率も停滞する
●日本電産の連結営業利益率の推移 出所:日本電産の資料を基に本誌作成
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小部氏:最近は全体的に良くないと思うね。我々は部品メーカーだから、車載事業にしても(完成車メーカーで)自動車ができて出荷されないと事業が動かない。当社から部品そのものをつくって出荷しても、検収されないと売り上げが立たないんです。それがまた当社の在庫になる。

 でも車載事業は、24年3月期の第2四半期(23年7~9月期)ぐらいになると変わってくると思いますよ。イーアクスルは第2世代の収益性の高いものを22年10月から出荷し始めており、これが23年7~9月期にはかなりいくだろう。24年3月期でみると約120万台の販売を見込んでいて、その7割くらいが第2世代になるのではないかとみています。

足元では精密小型モーターなども厳しいですね。

小部氏:(精密小型モーターを使う)世界のハードディスク市場は21年に約2億5900万台だったけど、22年は約1億7200万台に急減しました。データセンター用のモーターも急速に在庫調整が入っています。米IT(情報技術)大手などの投資が減速しているようです。

約700億円の構造改革費のうち、23年3月期の第4四半期(23年1~3月期)だけで約500億円を計上しました。在庫評価減のほか、欧州の顧客との間に製品の品質を巡るトラブルがあり、リコールも想定して引き当てたとのことですが、早めに多額の費用計上をして一気に“膿(うみ)”を出すのは、永守流経営の特徴です。なぜ、それほど早めの計上にこだわるのですか。

小部氏:まあ必要とみてのことですよ。その分、(償却費などが減るので)24年3月期の第1四半期(23年4~6月期)の業績からはプラスに働くことになります。

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