21年1月にデジタル証券を発行する予定の神奈川県葉山町の古民家「平野邸 Hayama」。地域の人が集う公共施設としても使われており、デジタル証券発行で新たなファン獲得を狙う

 神奈川県葉山町。別荘地として知られるこの地に、古民家再生や地域活性化の新たなスキームとして注目される場所がある。

 築80年以上の古民家を改築した「平野邸 Hayama」。昔ながらの日本らしい暮らしを体験できる1棟貸しの宿泊施設・レンタルスペースとして営業している。宿泊料金は1泊4万円からと安くはないが、東京から車で約1時間前後とアクセスも良く、近くにはマリーナなど人気の観光スポットも多い。地元の人が集まる料理教室などの催しも定期的に開かれており、地域の交流の場所としても活用されている。

 縁側には長年使われた古びたミシンが置かれ、畳の居間には「SONY」と大きく印字された古いラジオが置かれている。昔の日本にタイムスリップしたような感覚だ。「昔の家の雰囲気で心が和みますね」。東京から来た女性宿泊客は目の前に広がる庭を見て歓声を上げた。

 平野邸はクラウドファンディングの手法を利用して約80人の投資家から集めた1500万円を元に、ファンドが運営する。ファンドは宿泊業などで得た利益を投資家に分配する。こうしたスキームを活用した古民家再生事業は珍しくないが、ここが注目されるのは不動産の「デジタル証券化」を活用しようとしているためだ。

クラウドファンディングの権利譲渡可能に

 ファンドを運営するのはエンジョイワークス(神奈川県鎌倉市)。不動産情報サービスのLIFULLなどと協業し、ファンド運営期間中の事業の利益を受け取る権利(出資持ち分)を証明する「セキュリティー・トークン(ST)」と呼ばれるデジタル証券を2021年1月に発行する予定だ。

 デジタル証券は、安全性が高いブロックチェーン(分散型台帳)技術を使うため、第三者による認証がなくても自分の権利を証明でき、他の投資家への譲渡が容易になるなどの利点がある。

 エンジョイワークスの福田和則社長が期待するのは、新しい投資層の獲得を通じた地域活性化だ。「クラウドファンディングでは投資後の権利譲渡は難しかった。デジタル化によって『ここに投資して積極的にまちづくりにも携わりたい』と熱意のある人に権利を渡すこともできるようになり、投資機会の裾野が広がる」(福田社長)。出資者の約15%がST発行に関心を持っているとみられるという。

 冒頭の女性客も出資者の一人だ。デジタル証券について、「この家での催しの参加者が増え、全国にこの家のファンが広がるなら良いこと」と喜ぶ。同社は、こうした取り組みを起爆剤に空き家など遊休不動産の有効利用や地域活性化につなげる考えだ。

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