巣鴨信用金庫常盤台支店前の空きスペースで販売されている五平餅(写真:竹井俊晴)
巣鴨信用金庫常盤台支店前の空きスペースで販売されている五平餅(写真:竹井俊晴)

 東京・板橋区の東武東上線ときわ台駅。ここは池袋など都心へのアクセスが良好でありながら、住環境も充実している街だ。近くを走る都道445号線沿いはクルマのみならず住民の往来も活発である。この道路沿いに支店を構える巣鴨信用金庫常盤台支店は多くの人にとって目印となる建物だが、9月に入ると月に数回、のれんを掲げた1台のワゴンが支店の出入り口横のスペースに停まるようになる。

 「昨日買いたいと思って来たんだけど、いなかったから今日また来たよ」。そう言いながら笑顔で老夫婦がワゴンの中にいるエプロン姿の女性に話しかける。女性は慣れた手つきで、数本の串をコンロに並べた。数分経つと、香ばしい匂いが広がる。

 女性が作っているのは五平餅。岐阜や愛知、長野などの山間部で親しまれてきた郷土料理で、串につぶしたご飯を巻き付け、焼いてクルミを混ぜたみそだれをつけた、シンプルながら懐かしい味わいの食べ物である。

 なぜ、信用金庫の前でキッチンカーが五平餅を売っているのか。秘密は、巣鴨信用金庫がこのほど始めた取引先支援策にある。「コロナ禍で売り上げが大きく落ち込んだ飲食店を何らかの形で支援できないものかと考えた末のアイデア。取引先にキッチンカーと販売スペースを提供する取り組みを始めました」。こう話すのは、巣鴨信用金庫で新規事業を担当する西谷和也氏だ。

 

 今回、五平餅を販売しているのは板橋区の都営三田線志村坂上駅付近に実店舗を構える「Café de Cuore(カフェ・ド・クオーレ)」。普段は店舗で薬膳料理やヴィ―ガン料理を提供している。少しでも販路を広げたいとキッチンカー事業には前々から興味を持っていたが、初期投資もそれなりにかかるためためらいがあった。「そんな時、巣鴨信用金庫からご提案をいただいた。キッチンカー事業のテスト導入として、始めてみることにした」と、カフェ・ド・クオーレの店主は話す。五平餅には、カフェのコンセプトを踏襲した動物性食品を一切使わないオリジナルの味噌だれをかける。自家製とあって売り上げは上々だ。営業時間である午前11時から午後2時半の間に、多い時で100食近く売れた時もある。

ハウス食品グループ本社と連携

 巣鴨信金が飲食店支援にあたり、タッグを組んだのがスパイス大手のハウス食品グループ本社だ。同社は21年3月からキッチンカープラットフォーム事業「街角ステージweldi(ウェルディ)」を始めている、これはキッチンカーおよびキッチンカーを停車し飲食を販売するスペースをキッチンカーを利用したい事業者にレンタルするもので、必要に応じて、販売する飲食物の仕込みスペースを貸し出したり、営業ノウハウのコンサルティングサービスにも対応したりしている。

 キッチンカーの営業場所を提供するサービスは、不動産デベロッパー等を中心に増えてきているが、キッチンカーの導入から販売場所の提供、運営支援と一気通貫で手がけている事業者はまだ少ない。キッチンカーを手軽に利用できるため、夜の売り上げの落ち込みを補いたい、販路を拡大したい、自社商品の宣伝を兼ねて活用したい、など、さまざまな目的で飲食店に活用されている。これまで70を超える事業者が利用。約7万8000食を提供してきた。

 巣鴨信金とタッグを組んだサービスは「地域金融でweldi(ウェルディ)」という名称でスタートした。巣鴨信金は支店前スペースをキッチンカーの営業場所として、対象となる事業者に貸し出す。事業者はハウス食品グループ本社からキッチンカーをはじめとする設備をレンタルし、飲食物を販売するというスキームだ。

 これまでに、カフェ・ド・クオーレが提供する五平餅ブランド「fumidas」のほか、文京区向丘のつぼ焼き芋ブランド「treee」など、地域に根ざした飲食事業者が利用している。金融機関が取引先の事業支援を、融資など資金繰りを通した支援以外の形で行うのは珍しい。ユニークな取り組みといえそうだ。

この記事はシリーズ「諸行無常の金融まんだら」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。