経営者が個人で債務保証することが当たり前になっている現状は、中小企業やそのオーナーの再出発にとって大きな障害となっている。将来のある人材に負の遺産を残さず、いかに次世代に事業をつないでいくか。中小企業の経営者のみならず、日本の経済界にとっても大きな課題だ。

■本シリーズのラインアップ
コロナ融資で延命 過剰債務「ゾンビ企業」日本を揺らす
「打ち出の小づち」ゼロゼロ融資の後遺症 不良債権化に身構える銀行
上場企業にも債務の重荷 国際基準で浮かんだ126社
「企業の新陳代謝が人を救う。今度こそさらば昭和」冨山和彦氏
さらば「過剰債務のわな」 佐渡汽船の再出発、支えたみちのりHD
「ゾンビ代表格」物流業界で再編 SBSがM&Aで狙う一石二鳥
「融資先の破綻増、金融機関は正念場に」 広島市信組・山本理事長
・守るべきは企業より人 ホンダ下請け工場の「名誉ある退出」(今回)

 2022年3月、東京・足立区で60年以上の歴史を持つ金型メーカー、K機械製作所がそののれんを下ろした。ホンダ向けが主力だったが、直近は最終利益が2期連続の赤字だった。

 「自分の生活を最低限守り、事業を高く売ることはできるだろうか」。会社の代表が、メインバンクの足立成和信用金庫に相談を持ちかけたのは21年7月。最も取引の多いホンダ真岡工場の25年閉鎖が発表され、ホンダが金型製作を外注するとの情報も入ってきた。事業継続が困難だと判断し第三者の支援を探っていた。

 足立成和信金を通じて中小企業の事業承継支援に強みを持つ弁護士に相談し、ホンダとの取引実績と技術力を価値として売り込むことにした。

 3社のスポンサー候補から絞り込み、兵庫県の機械メーカーと事業譲渡契約を締結することができた。譲渡の対象となるのは本社の土地建物、そして設備のリース契約だ。

 借入金や出資金、売掛金といった「負の資産」は譲渡代金で弁済し、賄い切れない部分は金融機関の債権カットを交渉。中小企業活性化協議会と連携し、事業譲渡後の会社の債務処理手続きを私的整理の枠組みで行い、清算・解散させることにした。

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 このような債務整理で重要なのが、「経営者保証付き債務」の存在。企業が倒産すると経営者個人に返済義務が生じる。家族にも影響が及ぶため、経営者が事業再生や債務整理を先送りする主因になりがちだ。

 こうした商慣習をどう変えるか。全国銀行協会などは「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、会社の資産と経営者の資産を切り離す自主ルールを示し、金融機関に保証債務の免除などを促している。

 K機械製作所の場合、経営者には自由財産のみならず、一定期間の生活費と自宅が残された。自己破産よりも多くの資金が手元に残る上、債務整理した事実は信用情報登録機関に報告されず、経営者の再チャレンジも可能になる。足立成和信金の中村俊光課長は「過剰債務で身動きが取れなくなった個人事業主でも、事業譲渡で事業と人を生かせることが示された」と話す。

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