今年度から高校の家庭科の授業で、投資や資産形成まで踏み込んだ金融経済教育が必修となった。変化の激しい現代社会では、将来生きていくうえで切り離せないお金について若いうちから正しい知識を身に付けておく必要性が高まっている。だが一方で、「お金の話をするのは下品」「子どもにはお金の心配はさせたくない」などといった価値観が強かった日本では、金融リテラシーをいかに高めるか、そのノウハウに乏しいのも事実。金融教育の拡充に取り組む現場では今、何が起こっているのか。

 連載第1回は、金融庁の金融教育担当者として、高校の金融教育指導教材や小学生向けの「うんこお金ドリル」作成に携わった塚本俊太郎氏に、高校で金融教育を導入する目的やカリキュラムの内容について聞く。(聞き手は馬塲貴子)

塚本俊太郎(つかもと・しゅんたろう)氏
塚本俊太郎(つかもと・しゅんたろう)氏
1971年生まれ。94年慶應義塾大学総合政策学部卒。97年マックスウェル行政大学院修了。20年超外資系投資顧問会社で資産運用業務に従事した後、金融庁に入庁し、金融教育担当となる。2022年からフリーランスの金融教育家として活動。

今年度から、高校の家庭科などで金融教育が必修になりました。

 はい。これまでもお金に関する知識を学ぶ機会は、小・中・高の各科目において断片的に組み込まれていました。それが、文部科学省が定める教育課程の基準「学習指導要領」の改訂を機に変わろうとしています。2020年度の小学校の学習指導要領改訂から22年度の高校の学習指導要領改訂にかけて、内容がより拡充しました。中でも、高等学校の家庭科と公共の授業において、金融機関の役割や金融商品の特徴、資産形成について学ぶこととなったのが、大きな特徴といえます。

金融教育必修化の狙いは、どのようなところにあるのでしょうか。

 「公共」では、マクロ視点から金融経済の仕組みについて扱います。対して「家庭科」の授業では、消費者としてのミクロ視点から、「資産形成」や「家計管理」などについて扱います。近年、文部科学省は学習指導要領改訂において、科目を横断して教える「教科横断的な指導」を重視しています。公共と家庭科の授業内容をうまくつなげて教えることができれば「社会と個」のつながりという観点からもベストだと思います。

 社会的に金融教育のニーズが高まってきたという背景もあります。日本で金融教育に関する課題への取り組みが活発化したのは13年半ばごろですが、学習指導要領に本格的に取り入れられたのは今回が初めてといえるでしょう。

これからの社会を生きるうえで、なぜ金融の知識が今まで以上に求められているのでしょうか。

 今回実施されている学習指導要領改訂では、「生きる力」が重要なポイントとして挙げられています。社会の変化が以前と比べて激しくなったため、自分で目的を見つけ、それを達成するための課題を解決していく力がより求められるようになりました。生きる力の一つに、生きるために必要不可欠なお金について、きちんと理解しておくのが重要だということです。

 私は子どもたちに教える際、「まずはきちんと貯金しましょう」と伝えます。ただ、貯金するだけでは低金利だからそのままだと増えません。インフレになると、お金の価値が目減りしてしまう可能性だってあります。だから、資産運用が重要になってくるのだと話しています。

 加えて、自分の人生をより多様で豊かなものにするためにも、お金の面できちんと準備しておくのが大切だと言うようにしています。資産運用を取り入れて、人生の選択肢をいっぱい増やしていければいいよね、と子供たちが考えられるようにしています。資産運用というと何かとネガティブな話に捉えられがちですが、実はそうではないと、伝えるようにしています。

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