「個人送金の銀行振込手数料が安くなるといっても、送金はスマートフォン決済事業者が無料でやっているサービスがすでにある。それほどニーズがあるとも思えないし、今更感がある」──。銀行システムに詳しいあるフィンテック関係者が冷ややかな視線を送るのは、大手行が連携して少額決済専用の新しいインフラを構築することについてだ。

(写真:西村尚己/アフロ)
(写真:西村尚己/アフロ)

 三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクと、りそな銀行と埼玉りそな銀行の大手5行は8月6日、少額決済に新しい送金の枠組みをつくることで合意したと発表した。買い物の際にキャッシュカードで支払うと、口座から直接引き落とされる「J-Debit(Jデビット)」と呼ばれる既存の決済サービスシステムを活用する。

 今までよりも安価なインフラを構築することで、手数料の引き下げにつなげる狙いだ。スマートフォンのアプリで会食の割り勘をしたりお小遣いを渡したりする際、異なる事業者間でも手軽に送金できるようになる。今後、地方銀行やキャッシュレス決済事業者にも広く開放する。

 銀行手数料の動向について、着目点は2つある。スマホ決済などの少額多頻度決済にかかる銀行手数料が高止まりしている点と、そもそも銀行間送金で使うシステム「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」にスマホ決済事業者などのフィンテック業者が接続できず、閉鎖的な側面がある点だ。少額決済には全銀システムを介して取引が行われており、2つは関連している。

 今回の動きは前段の話だ。少額決済に関して、従来の全銀システムを使わずにJデビットのシステムをうまく活用しようというもの。Jデビットは1000を超える金融機関が接続しており、NTTデータが提供する「CAFIS(キャフィス)」と呼ばれるシステムを使っている。既存の基盤を応用することで、ゼロからシステムを構築するよりも早期かつ低コストで開発を進められるメリットがある。

 銀行界がスピードを重視する背景にあるのは、キャッシュレス化を一層進めたい政府が7月に策定した成長戦略に「多頻度小口決済について、新しい料金体系と新しい決済インフラの構築を検討する」との趣旨の方針が盛り込まれたため。スマホ決済が普及し、銀行口座を介して決済サービスにチャージするといった用途での使用も多くなっているのを踏まえた。

 料金体系に関しては、システム側のNTTデータがすでに動いている。今年10月、スマホ決済のチャージなど少額決済にかかわる一部のCAFISの利用料金を改定する予定だ。例えば、利用者が銀行口座からスマホ決済にチャージする際の取引で金融機関はNTTデータ側に1件当たり最大3.15円を支払っているが、これを1件当たり1円に引き下げる方針だ。

 そして決済インフラについても、政府の求めに応じる形で銀行界が今回動き出した。現在の全銀システムは高い安全性がある半面、その維持に膨大なコストがかかっている。それに伴い、全銀システムを利用しているスマホ決済事業者が支払う手数料も高止まりしており、スマホ決済業者からは批判が上がっていた。

 一般的に他行への振り込みは、インターネットバンキングを利用するケースでは、例えば、3万円未満の場合は1件当たり220円かかっている。今後、この全銀システムを介さずに新しいシステムを使えば大幅に手数料を減らせるというわけだ。

次ページ 銀行手数料は引き上げの動きも