SBIホールディングスが、傘下のSBI新生銀行にTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表。焦点となっているのは未返済の公的資金、約3500億円だ。SBIは非上場化後の返済を目指すとしている。バブル崩壊後、2000年代前半までに注入された公的資金が残っているのはSBI新生銀のみ。00年に新生銀行が発足してから、なぜこれほどまでに返済が滞り、経営の足かせとなってきたのか。バブル崩壊後の金融危機時、政府と外資系ファンドがギリギリの交渉を重ねてまとめた、売却内容の中にその「原点」がある。理解のカギとなるのは「幻の2500億円」だ。

(毎日新聞社/アフロ)
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 SBI新生銀行がまだ返済していない、残りの公的資金は約3500億円。5月12日付で政府(預金保険機構と整理回収機構)と同行、SBIホールディングスが締結した「公的資金の取扱いに関する契約書」に記されている、政府による「要回収額」は3493億円。実はこの金額には、キャッシュとしての資本注入だけでなく「政府が仕方なく投資ファンドに差し出した含み益」も含まれている。なぜ、こうしたカウント方法になったのか。それを知るには、時計の針を今からちょうど四半世紀前に戻す必要がある。

 順を追って流れを見ていこう。新生銀の前身だった日本長期信用銀行(長銀)は、バブル崩壊後の不良債権問題で1998年、経営破綻の間際に追い込まれていた。前年の北海道拓殖銀行と山一証券の破綻によって国内は金融危機に陥っており、当時の橋本龍太郎政権は金融機能安定化法を策定。これを受けて金融危機管理審査委員会(通称は佐々波委員会)が立ち上がる。

 同年3月、自民党の加藤紘一幹事長(当時)の意向も受けて、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)の岸暁頭取が全国銀行協会連合会(現全国銀行協会)会長として主要各行に公的資金の受け入れを要請。長銀を含む21行に公的資金が注入された。

 このとき長銀の第2回優先株について、整理回収銀行(後の整理回収機構)が1300億円で引き受けた。しかし、この公的資金は、政府の要回収額には含まれていない。

 長銀は同年10月から「特別公的管理」に入り、一時国有化。ここで預金保険機構が長銀の発行済み株式と優先株を引き取ったのだが、実質的に債務超過状態だったため99年3月に株価算定委員会が「取得対価はゼロ円」との沙汰を下した。つまり、この時点で要回収額からは「帳消し」の扱いとなった。

スタート地点は5000億円

 では、どこからが公的資金の要回収額なのか。2000年5月の国会で谷垣禎一金融再生担当相(当時)は、「5000億円」という金額を掲げている。その根拠について、後に金融庁長官を務めることになる森昭治金融再生委員会事務局長は、2つの金額の合算だと説明した。1つ目は、小渕恵三政権で成立した金融機能早期健全化法に基づき、00年3月に注入した2400億円だ。これは長銀の第3回優先株(6億株)を整理回収機構が引き受ける対価だった。

 重要なのは2つ目だ。長銀は投資などで保有していた他社の株式について、約2500億円の含み益を抱えていた。政府が国有化していた長銀を売却する際、この含み益を国庫には入れず、銀行の譲渡先である米投資ファンドのリップルウッドを中心とするグループに渡すこととなった。

 森氏は国会での答弁で「あえて含み益を国は取り戻しませんで、先方の資本勘定に繰り入れることを容認した」と、苦渋の判断だったことを強調。建前としては新生銀行の資本増強だが、「我々はいずれは取り戻さなきゃいけないという考え方」(森氏)と説明した。

 長銀の売却交渉で責任者だった柳澤伯夫金融再生担当相は、回顧録で含み益について「その取得が交渉成立の不可欠の条件であると(リップルウッドが)主張するようになった」と明かしている。

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