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クーデターが起きるのではないか――。資産が2700億円規模で全国最小銀行の佐賀共栄銀行で頭取が解任されるとまことしやかに噂された時期がある。頭取に就任してまもない佐賀共栄銀の二宮洋二が、店舗・人員削減の改革を遂行しようとしていた2014年度だ。大胆なリストラを進めようとする二宮に対して、頭取以外の当時の経営陣は猛反発。両者の溝は埋まらず、最終的に反対する取締役が2年で全員退任し、今も現役の二宮が改革を断行した。そしてその後、佐賀共栄銀は13年間低下が続いていた貸出金利息収入の前年比プラスを果たすことになる。日経ビジネス3月16日号ケーススタディーで紹介した佐賀共栄銀。地方銀行は、新型コロナ感染拡大の影響で、厳しい経営が予想される。佐賀共栄銀の真価が問われるのはこれからだが、二宮が就任してから6年をかけて全国最小の銀行が断行してきた経営改革の軌跡を追った(敬称略)。

佐賀市の佐賀共栄銀行本店。2014年6月の就任後、店舗削減などの改革を断行しようとした頭取の二宮洋二に対して、ほかの取締役は猛反発した

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 「店舗は現状から10店程度、人員は約100人減らします。この改革をしなければ、我々は生き残れません」

 「店や人を減らせば、融資量が下がります。利益も減ります。頭取は、我々の銀行をつぶす気なのですか?」

 「取引先にしっかり足を運べば、融資は減らないはずです。その上で、この銀行の高コスト構造をすぐ抜本的に変えなければ、うちの銀行は数年後に赤字に陥ります」

 「問題意識は分かりますが、今までも十分利益を出してきました。改革のスピードをそこまで急ぐ必要はないのでは?」

 「いや、改革は断固進めます」

 「頭取の考えに、我々は賛同できません! 考えを改めて下さい!」

対立は「二宮1人に対して他6人」

 佐賀共栄銀行頭取の二宮洋二が2014年6月に就任した後、翌15年度から始まる経営計画の中身を巡って、二宮と二宮以外の取締役は経営会議で激しい議論を交わした。14年当時の佐賀共栄銀の取締役は計7人。対立は「二宮1人に対して他6人」という構図だった。

 15年に入ると、対立はさらにヒートアップする。コスト削減などの構造改革を強硬に進めようとする二宮と、それを阻もうとする当時の副頭取、専務ら取締役。両者の間に生じた不協和音は、もはや収拾がつかない状況に陥っていた。

 当時を知る複数の関係者によると、15年の初め、抵抗勢力側は、二宮の改革を阻止するために取締役会で緊急動議による頭取解任を模索する動きがあったという。二宮は「異端者」として扱われ、徐々に孤立していった。仮に頭取以外の経営陣によって頭取解任の「クーデター」が起きれば、一般客から資金を預かり、世間からの「信用」を売りとする銀行界で異例の事態になる――。水面下で動向を知る金融関係者の緊張感は高まった。

 だが、最終的にそこまでに至らず、解任とはならなかった。ある関係者は「クーデターが起きれば銀行そのものの信用に関わる問題となるため拳を下ろした」という。

 そして、二宮との経営方針の違いなどを理由に15年6月に改革反対派の筆頭である副頭取が、16年6月に専務、常務らが、それぞれ会社を去った。2年のうちに二宮の頭取着任時に取締役だった全員が退任し、彼らが企図したクーデターは幻に終わった。そのうちの1人は、日経ビジネスの取材に対し「もう過去のこと。当時のことに関して言うことは何もない」と話した。

 当時、経営陣の中で四面楚歌(そか)となっていた二宮だが、「行内からどんなに反発を受けても改革を遂行するという信念はぶれなかった」という。それは、会社の現状を見れば、高コスト構造にメスを入れなければならないことが明白だったからだ。

 二宮の着任当時、行員約400人、店舗36店の体制だった。着任直後の15年3月期、人件費などの「営業経費」を、一般企業の粗利益にあたる「業務粗利益」で割って算出する「OHR」と呼ばれる経費率は88%と高止まりしていた。経費率は、銀行の効率性を示す指標の一つ。この比率が低いほど、より少ない経費で多くの粗利益を上げて経営効率が良いことを表す。

 全国銀行協会の統計によると、19年3月期の銀行全体平均(115行)の経費率は68%。佐賀共栄銀の88%は全国平均よりも高く、非効率な経営をしていた。低金利が続き、粗利が今後細ることが見込まれる中、行員数、店舗の削減によって、経費率を下げることが必須だった。