古澤満宏氏
古澤満宏氏
1979年東京大学法学部卒業。同年、大蔵省(現財務省)入省の後、83年フランス国立行政学院(ENA)卒業。国際通貨基金(IMF)日本代表理事や財務省理財局長、財務官などの要職を経て2015年3月からIMF副専務理事を約6年半務めた。21年12月より三井住友銀行国際金融研究所理事長。(写真:的野 弘路)

ウクライナ紛争では、欧米諸国が結束してロシアに厳しい金融制裁を科しました。今後の国際通貨制度や決済システムに影響はあるのでしょうか。

古澤満宏・三井住友銀行国際金融研究所理事長(元IMF副専務理事、以下、古澤氏):国際決済システムである国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除など、制裁にはいくつかメニューがありましたが、やはり大きかったのはロシア中央銀行の資産凍結だと思います。

 ロシアはエネルギー価格が高水準で推移していた際に、外貨準備を大きく増やしました。額にして約6300億ドル(約77兆円)。これはロシアのGDP(国内総生産)の約4割に相当する額です。IMF(国際通貨基金)が掲げる、望ましい外貨準備高の基準からしても、とても潤沢な量ですね。ですがこのおよそ半分が、制裁によって使えなくなってしまった。

 ロシアは2014年のクリミア併合以降、外貨準備全体に占めるドルの割合を徐々に落としていましたが、それだけではダメージを避けられませんでした。なぜなら今回は欧州や日本も連帯を強める形で米国に従ったからです。ウクライナ危機は世界に経済安全保障上の観点から外貨準備のあり方を見直す重要性を再認識させたのではないでしょうか。外貨準備を多様化する動きが今後、各国で高まるかもしれません。

 もっとも、外貨準備には極めてその国の戦略や政治的な思惑が反映されますが、貿易や投資など、実際の経済活動で使用される通貨はそう簡単には変わらないでしょう。

ですが、サウジアラビアが、中国向けの原油輸出で人民元決済を検討するなど、「ドル離れ」につながる話もあります。

古澤氏:いくら国家がドルの影響力を小さくしようと動いても、実際どの通貨が一番使われるのか、決めるのは貿易や投資に関わる市場参加者です。取引をする際に有利な通貨はどれか、その通貨は信認に値するか、経済のファンダメンタルズはどうか――彼らが様々な観点から判断した「総意」が、通貨の需給を決め、マーケットの動きに反映されます。外貨準備は経済安全保障の観点から変更可能ですが、マーケットで使用される通貨の構成比は容易に変わるものではないと思います。

第2次世界大戦後に定着した米ドルを軸とする国際通貨制度は、グローバリゼーションや自由貿易の拡大に大きく貢献しました。しかし1971年のニクソン・ショックを機に変動相場制へ移行した後は、時に通貨の乱高下を招くようになります。ドルを擁する米国の金融政策の影響も極めて受けやすくなりました。とりわけ足元の米国の金融政策の正常化に向けた動きは、世界経済を混乱させています。

古澤氏:今日は100ドルの価値を持っていた通貨が、明日は70ドル、あさっては120ドル、というように毎日コロコロ変わってしまったら、通貨としては使いにくいですよね。

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