ロシアによるウクライナ侵攻は、世界および日本の経済活動にどんな影響を及ぼすのか。大規模な経済制裁が米ドル中心の体制を脅かすことはないのか。「前例なきロシアへの金融制裁 ドル覇権の『劇薬』に」に続き、識者に今後の見通しを聞いていく。初回は前アジア開発銀行(ADB)総裁でみずほリサーチ&テクノロジーズの中尾武彦理事長。同氏は「中国・人民元がドルに替わる役割を果たすことは考えにくい」と見る。

中尾武彦(なかお・たけひこ)氏
中尾武彦(なかお・たけひこ)氏
1956年生まれ。78年大蔵省(現・財務省)入省。IMF政策企画審査局、在米国大使館公使、財務省国際局長、財務官などを歴任。2013~2020年までアジア開発銀行(ADB)総裁。20年4月みずほ総合研究所理事長、21年4月から現職。

ウクライナに侵攻したロシアに対し、主要国が前例のない経済制裁を実施したことで、ロシアと中国の接近が取り沙汰されます。サウジアラビアも対中貿易で決済通貨を人民元にするとの海外報道もありました。今回の大規模な経済制裁は、ドルの基軸通貨性にとってのターニングポイントになり得るでしょうか。

みずほリサーチ&テクノロジーズの中尾武彦理事長(以下、中尾氏):ドル中心の通貨システムというのは、これまでも課題が指摘されてきました。ニクソン・ショック(金とドルの交換をやめて変動相場制に移行したこと)の背景には米国の経常収支赤字や財政赤字があり、ブレトンウッズ体制ができた当時に比べ、ドルの地位は相対的に低くなるのではともいわれました。

 ですが、結局は金との結びつきが外れても、やはりドルは大きなシェアを持つ基軸通貨であり続けています。ドルに替わるものはなかった。例えばユーロは、(ドイツ)マルクや(フランス)フランなどバラバラに存在していたときと比べ圧倒的になってはいません。ユーロは通貨としては一つですが、国債がバラバラだというのも一つの理由です。

 金融商品や外貨準備として、市場参加者や当局が保有するのは国債です。国債がバラバラだと、取引の深さや量といった流動性の面で限界があります。地政学的にも欧州の力は圧倒的ではありません。ウクライナの問題からも大きな影響を受けるでしょう。だから結局アメリカのドルということなのです。

 一方で今後、中国・人民元がドルに替わる役割を少しでも果たすようになるかというと、未来永劫(えいごう)ないかどうかはわかりませんが、今見えている範囲では考えにくい。中国と取引をしている周辺国のラオスとかカンボジアとかでは一定の役割を果たすかもしれませんが。